海野義雄、堤剛、朝比奈隆指揮新日本フィル ブラームス 二重協奏曲ほか(1988.5録音)

今度のチクルス(1990年)のようにコンツェルトを並べてみると、なかなか意味があって・・・、〈ドッペルコンツェルト(二重協奏曲)〉のオーケストラは面白いですね。面白いって言っちゃ悪いけど、ソロばかりが無闇に技巧が難しい。
金子建志編/解説「朝比奈隆—交響楽の世界」(早稲田出版)P151

朝比奈隆はやっぱりライヴの人だ。
スタジオでの、整理整頓された演奏は、確かに堂々たる風趣を明らかにするけれど、内面の充実度、白熱ぶりという点では、実演に劣る。

海野義雄、堤剛とのブラームスの二重協奏曲は、第1楽章アレグロ冒頭から渾身の表現で(何という遅さ!)、さぞや名演奏と思わせるものの、危なげない安全運転が、朝比奈隆の長所をスポイルするようで、わずか30数分という作品にもかかわらず集中力が持たなくなる。
しかし、第2楽章アンダンテは、思い入れたっぷりで、ブラームスの憧憬的な旋律美が十分生かされており、美しい。

ブラームスの芸術というのは多分にセンチメンタルなのではないでしょうか。写真では髭をはやして恐そうに写っていますが、人格は非常に抒情的で感傷的な人だったのではないでしょうか。私はセンチメンタルだということはちっとも悪いことではないと思います。
~「朝比奈隆音楽談義」(芸術現代社)

朝比奈御大の言葉通り、なんとセンチメンタルな音楽。
終楽章ヴィヴァーチェ・ノン・トロッポに溢れる枯淡の熱情。内側でメラメラと燃える精神の炎が音楽の進行と共に真に迫る様。海野のヴァイオリンと堤のチェロががっぷり四つで、朗々と、最大の力を込めてブラームスの音楽を歌うのである。
ちなみに、コーダ直前でリタルダンド気味に奏されたかと思うと、そこから一気にスピードアップして音楽を再生する方法は、若干恣意的な気もするが、これはこれでライヴの人朝比奈隆の真骨頂であるように思う。

ブラームス:
・ヴァイオリン、チェロと管弦楽のための二重協奏曲イ短調作品102
・大学祝典序曲作品80
海野義雄(ヴァイオリン)
堤剛(チェロ)
朝比奈隆指揮新日本フィルハーモニー交響楽団(1988.5.11&12録音)

「大学祝典序曲」が素晴らしい。
朝比奈はやはり想いを込めて、徹底的に愚直に音を描く。ブラームス自身の言葉通り終始喜びが弾けるが、朝比奈の演奏には、どこか寂寥感がある。

指揮者という職業柄、孤独感に襲われることがあります。私は音楽学校出身でなく、音楽の専門教育を正式に受けたことがありません。だから、孤独感も一層強くなります。でも、音楽学校に行かずに回り道をしたからこそ、旧制東京高校、京大、阪急時代などの先輩や友人から支えられ、助けてもらえたと思います。そして、オーケストラの経営もいささか学ばせていただきました。単なる知識としてでなく、もっと大きな形で音楽を理解し、プレーヤーをリードしてきたつもりです。
朝比奈隆「この響きの中に 私の音楽・酒・人生」(実業之日本社)P151

なるほど、謙虚さと孤独感。
朝比奈の人間性が見事にブラームスと同期するかのようだ。

人気ブログランキング


コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む