1800年4月2日、ウィーンのブルク劇場を借り切って、ベートーヴェンは管弦楽作品作曲家としてのデビュー・コンサートを敢行した。
当日、演奏されたベートーヴェン作品は、即興演奏を除いて、演奏順に、ピアノ・コンチェルト第1番(おそらく)、弦管混合七重奏曲、シンフォニー第1番の3曲で、作品の鮮度もこの順番であった(おそらく)。
~大崎滋生著「ベートーヴェン像再構築2」(春秋社)P459
果たしてかの交響曲第1番は当時の聴衆にどのように受け止められたのか?
ハイドンやモーツァルトの衣鉢を受け継ぎながら、ベートーヴェンらしい革新の響きが聴かれるこの交響曲は、今もってやはり新しい。
ガーディナーの演奏は鮮烈だ。
初めて耳にしたあの頃、僕は多少の偏見でもって違和感をもったのだが、30年近くを経てあらためて聴いたとき、ベートーヴェンの音楽に内在する雄渾な、活気に満ちる音楽を見事に再生していて、正直驚いた。実際、どの楽章においても作為のようなものを感じていたのに、今日においてはそれがまったくない。不思議なことだ。
この時期、ベートーヴェンが難聴に苦しみ、何より音楽家としての生命線を奪われるであろう恐怖と闘いながら、そして、友人たちとの交流に支障をきたす事実に悩みながら、そういう苦悩の表出の一切感じられない作品を世に問うていたこと自体がやはり奇蹟であると僕は思う。その点から考えてみても、彼が神に選ばれし存在であり、音楽家として全世界に、否、全宇宙に対して果たさなければならない使命があったと僕は見る。
ベートーヴェンの交響曲は、そして、その劈頭を飾るハ長調の交響曲は本当に素晴らしい。