ハイドシェック ベートーヴェン 「エロイカ」の主題による変奏曲とフーガ(1972.10.30録音)ほか

自作の主題への愛着と自負。
ウィーンでの足場を着実に固めつつあったベートーヴェンの渾身作。

私はこれらの変奏曲においてこれまでふつうであった方法から離れており、これらの変奏曲は私のこれまでの変奏曲とははっきりと違うので、私はこれらを私のこれまでの変奏曲とははっきりと違うので、私はこれらを私のこれまでのすべての変奏曲と同じようにそれらの順列のなかで続けさせることを望まず、そしてそれらが、私の他のすべての変奏曲と同様にナンバーによってただ示されるのではなく、私はこれらを私の作品の本当の数に組入れました、テーマ自体が私のものであるのでなおさらです。
大崎滋生著「ベートーヴェン像再構築2」(春秋社)P517

これは自筆譜に長々と添付された、自身による文章である。くどい言い回しが、理解してもらおうとするベートーヴェンの本気を表しているように思う。大崎滋生氏は、この作品を10年間の集大成だと位置づける。ウィーンでの成功と、ほぼ同時に発症する耳疾患への苦悩と押し寄せる未来への不安。「苦悩から解放へ」をモットーとするベートーヴェンの礎のような作品だ。

若きエリック・ハイドシェックの演奏は、いつ聴いても刺激的。
打鍵は時に激しく、時に優しく、音楽はどの瞬間も飛翔する。

・ベートーヴェン:「エロイカ」の主題による15の変奏曲とフーガ変ホ長調作品35(1972.10.30録音)
・ブラームス:ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ変ロ長調作品24(1958.11.20&28録音)
・メンデルスゾーン:厳格な変奏曲ニ短調作品54(1958.11.20&28録音)
・フォーレ:主題と変奏嬰ハ短調作品73(1962.10.17-18録音)
エリック・ハイドシェック(ピアノ)

ハイドシェックのベートーヴェンは、とても自由だ。感じたままをただ音に乗せる純粋無垢さ。ベートーヴェンがまさに意図した、変奏における革新、特にフィナーレ・アッラ・フーガの作曲者の魂が乗り移ったような煌めく音楽に僕は思わずため息が出る。

私にとってピアノを弾くことは、「生きる」ことを意味します。自分の人生をピアノで表現しているのです。昔から自分の考えを何かの言葉で表すよりも、ピアノを弾いて表現するほうが的確に、かつ自然にいくと思っています。ルービンシュタインにピアノを聴いてもらったとき、「私のピアノをどう思われますか」と質問したら、「きみはきみの手と指で自分自身のおしゃべりをしている。それでいいんだよ」といわれました。感動しましたね。
エリック・ハイドシェックへの5つの質問

あるいは、「ヘンデル変奏曲」の、超絶技巧をものともせず、ブラームスの深層を抉るような(喜びも悲しみも露わにする)心理描写(?)に卒倒。

「霊は魂の光だ」ブラームスは続けた。「霊は普遍的なものだ。霊は宇宙の創造的なエネルギーだ。人間の魂は、霊に照らし出されるまでは、魂自体の持つ力に気づかない。従って人間が進化し成長しようと思ったら、自分自身の魂の力をどう用い、どう伸ばすかを学ぶ必要がある。創造力に満ちた偉大な天才は、皆この方法を学んでいる。もちろん天才の中にも、この過程に気づいているとは思えない者はいるが」。
アーサー・M・エーブル著/吉田幸弘訳「大作曲家が語る音楽の創造と霊感」(出版館ブック・クラブ)P11

いかに真我にリーチできるか?
おそらくハイドシェックは無意識にその境地を体感しているのだろう。
だから、彼の演奏はいつも説得力がある。メンデルスゾーンの内なる憂いと弾ける信念。ハイドシェックの演奏は、いつどんなときも感応的で音楽的だ。

私は子どものころから鍵盤を見ると、蜂が甘い蜜に吸い寄せられるように、弾きたくてたまらなくなりました。その気持ちはいまでも変わりません。ピアノを弾くことが好きで好きでたまらないのです。そういう気持ちを持って弾くと、心から楽しめます。
エリック・ハイドシェックへの5つの質問

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