サヴァリッシュ指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管 メンデルスゾーン オラトリオ「エリヤ」(1968.6録音)

新型コロナウィルスの感染拡大で、観光業が大打撃を受けているのだという。観光の脆弱性が露呈したことで、正負の面があると指摘した専門家がいるが、陰陽相対の世界において、正負の面があるのは何事においても。
この際、なぜ「光を観る」と書くのかを考えるべし。
コロナ禍によって、真の「観光」を求める時代がいよいよ到来したのだと思う。

私は驚くべきことに気づいた。カトリック教徒は何世紀にもわたってどの教会にも音楽が流れ、主要な教会なら、可能であれば毎日曜日、美しく響くミサを歌う。だが彼らには、今日に至るまでまあまあの音楽すらない。つまり実際に不快さも感じなければ芝居じみてもいない音楽を・・・。もし私がカトリック信者だったら、まさに今夕一曲のミサに取り組み、それがどんな作品であれ、本来の神聖な目的を常に思い起こさせるような、唯一のミサ曲になることだろう。
パトリック・カヴァノー著/吉田幸弘訳「大作曲家の信仰と音楽」(教文館)P90-91

自身の才能には自信を持っていたメンデルスゾーンにあって、神への信仰についても大いなる自負があったとみる。

訪問客は遅くに到着し、家人を起こしてはいけないと、ほとんど気づかないほどにドアを叩く。返事がないので客は中に入り、友人の音楽用書斎へと進む。その部屋は良く知っており、何度となく親密な会話に引き込まれては、夜分にまで及んだものだ。
書斎に入ると、友人は聖書に没頭している。訪問客はばつが悪そうに、しばらくの間黙って立ち尽くす。ついに家の主は訪問客をちらりと見上げるが、驚いたそぶりも見せなければ、歓迎の様子もない。「聞き給え」そう言うと、興奮しながら声を上げて読み始める。「見よ、そのとき主が通り過ぎて行かれた。・・・」(列王上19・11)。友人は朗読を続け、その箇所の劇的な状況に感極まるにつれ、声の調子は高まっていく。
訪問者は預言者エリヤの物語だと気づく。と、その時突然朗読が止む。「オラトリオの題材に申し分ない話じゃないか?」フェリックス・メンデルスゾーンが尋ねる。聖書を机の上に置き、客人の反応をうかがいながら、19世紀最大のオラトリオは、こうして着想されたのである。

~同上書P86

メンデルスゾーンは、文字通り光を観ていたのだろうと想像する(彼の描く水彩画がそのことを証明する)。天才の筆致が、物語の崇高さに拍車をかける。

・メンデルスゾーン:オラトリオ「エリヤ」作品70
エリー・アメリング(ソプラノI、寡婦・天使・セラピム)
レナーテ・クラーマー(ソプラノII、若者・セラピム)
アンネリース・ブルマイスター(アルトI、天使・セラピム)
ギゼラ・シュレーター(アルトII、王妃・セラピム)
ペーター・シュライアー(テノールI、オバディア)
ハンス=ヨアヒム・ロッチュ(テノールII、アハブ)
テオ・アダム(バスI、エリヤ)
ヘルマン=クリスティアン・ポルスター(バスII)
クリステル・クルーグ(ソプラノ、3人の天使)
ロスヴィタ・トレクスラー(ソプラノ、3人の天使)
イングリット・ヴァンデルト(ソプラノ、3人の天使)
ホルスト・ノイマン(合唱指揮)
ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団・放送合唱団(1968.6録音)

第2部の抒情に僕は惹かれる。
3人の天使の第28曲三重唱「山に向かって目を上げよ」の美しさ。続く第29曲合唱「見よ、イスラエルをまもりたもうものは」の荘厳な、慈しみ溢れる合唱に心休む。

見よ、イスラエルを守る方は
眠ることもまどろむこともない。
たとえ苦悩のただ中を歩もうとも
主はあなたを力づけてくださる。

(対訳:國井健宏)

そして、エリヤの覚醒を喚起する第30曲レチタティーヴォ以降の物語のクライマックスが聴きどころ。ペーター・シュライアーによる第39曲アリア「その時正しいものは」がことに素晴らしい。

その時正しい者たちは、神の国で
太陽のように輝くだろう。
幸せと喜びに満たされ、
悲しみと嘆きは逃げ去ってしまう。

(対訳:國井健宏)

いよいよ救世主降臨の預言を示す第41曲合唱「ひとりのものが北の方で」の神々しさ。さらに第42曲終曲合唱「かくてなんじらの光は」の壮大なる解放と浄化に感謝の念が起こる。
サヴァリッシュの棒は、ドラマを盛り上げる。何という大らかさ、そして、何という信仰告白!アメリング以外、当時の東ドイツを代表する歌手陣を起用し、作品の本質を見事に抉り、響かせる様子に感激の思いを僕は表出せざるを得ない。

※歌詞対訳はWEBサイト「音楽の森」より引用

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