人間セロニアス・モンク

油井正一氏によるアルバム解説が滅法面白い。音楽が録音されるその裏の裏まで暴きながら、そこにジャズ・メンたちの「人間らしさ」が垣間見え、音盤の価値 を一段も二段も上げているのである。ほとんど一発録りに近いであろう、1950年代初頭のスタジオでのシーンが古いモノラル録音を通じて、彼らの呟きなど を交えながら眼前にはっきりと見えるよう。何てホットで、何てクールで、本当に活き活きとした「即興」が繰り広げられる。

その時代、確か にフルトヴェングラーもトスカニーニも、もちろんワルターも存命だった。ヨーロッパで活動していたフルトヴェングラーはともかく、ニューヨークにいたトス カニーニやワルターは同じ空気を同じ場所で吸っていたのかと思うと、素敵な時代だったんだとあらためて感じることができる。

いかにも変人扱いされていたセロニアス・モンクは決して変わり者ではなかった。至極真面目で 誠実な一面をもった人間らしい人だった。濡れ衣を着せられ懲役に服し、出所後もクラブに出演を許されなかった不遇な時代、苦難の6年間に録音された何枚か の音盤はいずれも名作だといえるが、中でもブレイキーやヒースとトリオを組んで発表したレコードは、人間セロニアス・モンクの「ありのまま」を見事に表現 しており、繰り返し何度聴いても心が熱くなる輝きを秘めている。

Thelonious Monk Trio(1952.10.15&12.18, 1954.9.22)Personnel
Thelonious Monk(piano)
Gary Mapp(bass)
Percy Heath(bass)
Art Blakey(drums)
Max Roach(drums)

青柳いづみこさんの言う「ジャ ズメンというのは、それこそ空中から音楽をとり出すように、瞬間にそれをつかまえることで活動が成り立っている。しかも、ライヴは昼間一回、夜二回など、 数が多い。常にノッていなければならないミュージシャンたちも大変だ」という言葉をまさに体現するかのような、モンクを中心とした50年代トリオの真の傑 作。

大変だろうが、何より本人たちが楽しんでいることが手に取るようにわかる。彼らが麻薬にはまってしまうのもわからないでもない。そん な中でモンクは一切麻薬には手を出さなかったという。「素面」でありながら、そこには酔っ払いのような浮遊感と、どっしりと地に足の根付いた揺るぎなさが 感じとれる。

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