
あなたのヴェールをめぐって戯れ
花のようにあなたに寄りすがり
あえかにおののくわが心を包む
音という音に あなたの心を感じる時
信仰篤くあこがれ深く
あなたそのままに あなたの姿の前に立ち
わが涙のための場所を
わが愛のための世界を見出した時
胸の鼓動を聞けよとばかり
わが心が日輪に向い
星をおのが同胞と呼び
春を神のメロディーと呼んだ時
森をゆすぶる微風の中に
あなたの霊 歓喜の霊が
心の静かな波となって揺れた時
その時 金色の日々が 私を抱きしめていた。
「自然へ」
~川村二郎訳「ヘルダーリン詩集」(岩波文庫)P14-15
夢見るクララ・ハスキル。
何を聴いても彼女の演奏はとても切ない。
生涯独身を貫き、音楽にのみ身を捧げた彼女の人生はおそらく孤独だった。
古い録音から浮き上がる、何とも表現し難い寂寥感は、ハスキルの内面の音化なのだと思う。
モーツァルトがことのほか良い。特に緩徐楽章の慈しみ。果たしてそれは、モーツァルトの魂の慟哭なのかどうか、歓喜の内に垣間見える悲哀の情が、これほど見事に捉えられた音楽があろうか。
堂々として深沈たるベートーヴェンに寄り添う繊細なピアノがまた美しい。
第1楽章アレグロ・コン・ブリオ。ピアノ提示部の、管弦楽に比して何という明るさよ。録音のせいもあろう、くぐもった、靄ついた音が、それでも心に迫るのだから実演だったらいかに魂にまで響いたことか。最美は、思念溢れる第2楽章ラルゴ。大自然と戯れる、大宇宙と一つになるハスキルのピアノの音。
ハスキルを聴きながら、僕はフリードリヒ・ヘルダーリンを思った。精神疾患が重篤になるにつれ、社会生活もままならなくなった詩人の残した言葉は崇高にして繊細であり、またリアルだ。