Boston “Corporate America” (2002)

長い間積読状態になっていた、立花隆著「武満徹・音楽創造への旅」(文藝春秋)。少しずつひもといているが、読み始めたら止まらない、これは(最近とんと姿を見なくなった)知の巨人の残した、途轍もない記録の一つであると思う。

それはそうかもしれない。だけどね、「何やりたいの」と聞くと、「作曲家になりたいんです、教えていただけないでしょうか」。これはぼく間違いだと思うんです。作曲家になりたいというのはいけない。「作曲したい」か、「音楽をしたい」ならいい。ぼくはさっき作曲家になる決心をしたといったけど、それはそういう職業を選択したということじゃないんです。とにかく音楽をやりたかったんです。作曲を通じて音楽をやりたかったんです。ぼくにはそれ以外何もなかったんです。音楽以外何も頭になかった。寝てもさめても音楽のことばかり考えていました。生きることと音楽とがもう切り離せなくなっていました。のっぴきならないというのは、そういう意味なんです。
立花隆著「武満徹・音楽創造への旅」(文藝春秋)P39

武満徹の言葉はひとつの真理だ。「作曲家になりたい」という言葉には「有名になりたい」というエゴがあるけれど、「作曲をしたい」、「音楽をしたい」という言葉には「無名でもいいから」という謙虚さがある。

予期せず(?)売れてしまったバンドにボストン(ベジタリアンズ・ロック!)がある。
トム・ショルツは、ただ音楽がしたかったのだと思う。だから活動期間45年以上を経てもリリースしたアルバムはわずか6枚(ベスト盤を入れると7枚)。数年に1度の割合で、忘れたころにやって来る彼らのアルバムは、そのとき、その瞬間はファンとして欣喜雀躍するも、実際その凄さ、素晴らしさはなかなかわからない。それゆえに、ポピュラー・シーンにおいては根強いフリークが世界中にあるものの、セールス的には爆発的なものにならない(特に2000年代以降)。

リリースから18年が経過し、滅多に取り出さないアルバムを聴いて、僕は我に返った。駄作だと信じていたアルバムが、これほど素晴らしい、内容の濃い、普遍的なアルバムだったとは。

・Boston:Corporate America (2002)

Personnel
Tom Scholz (guitar, bass guitar, keyboards, drums, vocals)
Brad Delp (vocals, backing vocals)
Fran Cosmo (vocals)
Beth Cohen (vocals, flute)
Charlie Farren (vocals)
Gary Pihl (guitar, keyboards)
Anthony Cosmo (guitar, vocals)
Kimberley Dahme (vocals, guitar)
David Sikes (bass guitar)
Curly Smith (drums)
Bill Carman (bass guitar)
Tom Moonan (drums, percussion)
Frank Talarico (percussion loop)
Sean Tierney (keyboards)

リード・ヴォーカルを分かって成す、変幻自在のボストン・サウンドがこのアルバムの最大の特長か。時を経て、僕の思考や感覚が熟成されたのか、さらなる広がりと、さらなる発展がもたらされた傑作だと、2020年の暮れに思った。個人的な嗜好はもちろん反映されるだろうが、ボストンの音楽はとても何にもまして魅力的だ。

—そういう旋律というのは、頭の中に自然に浮かんでくるんですか。
「浮かんでくるんです。いまはそういうことはなかなかなくて、頭からしぼり出しながら書いてるんですが、あのころは、本当によく頭の中に音楽が浮かんできたんです。だから勉強なんていらないと思ったんでしょうね。浮かんでくるものを書きとめればいい。だから、いつでも五線譜とボール紙で作った鍵盤を持ち歩いていました」

~同上書P43

武満の創造の秘密がここに語られる。これはもはや(神とつながる)天才だけに許された方法だろうか。トム・ショルツもそういう人なのだろうと思う。

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