ツェンカー トレンクナー マーラー 交響曲第7番(4手ピアノ編曲版)(1992.1録音)

ピアノの音色がことのほか好きで、管弦楽曲のピアノ編曲版など、目に入るたびに手に取ってきた。しかしながら、ショスタコーヴィチの場合はそうでもないのに、マーラーの大交響曲になると、確かに好きなピアノの音ではあるのだが、なかなか全曲を聴き通すのに集中力がずっと持たなかった。

僕にとって晦渋な交響曲第7番の理解の手助けになったのは、他でもないアルフレード・カゼッラによる4手ピアノ編曲版だった。ただし、色彩豊かな音楽の真髄がひとたび手の内に入ると、少々物足りなく感じるようになったのも確かだ。

初演直前、エーミール・グートマン宛マーラーの書簡には次のようにある。

初の2回の練習はパート別で行いたいと思います—つまり、弦、ハープ、マンドリンとギター、また管楽器と打楽器、です。この後に5回の全体練習が続くことになります。—この5回の全体練習は毎日1回だけしかできません。—上述の特別練習(パート別)は都合によっては同じ日のうちに2回しても差し支えありません。演奏当日には練習はいたしません。この交響曲は、管楽器にはなはだ負担が大きいため、管楽器は十全の休養をとっておく必要があります。
(1908年秋)
ヘルタ・ブラウコップフ編/須永恒雄訳「マーラー書簡集」(法政大学出版局)P366

技術的にも相当な力量を強いられたオーケストラの悲鳴のようなものが聞こえるようだ。その上、マーラーは次のように追伸する。

第1トランペット、第1ホルン、およびティムパニーは非常に優秀でなければなりません。—ティムパニー奏者は、たいへん高機能の機械式ペダルティムパニーを使用しなければなりません。
快適で静かなホテルに、とくに静かな部屋をお願いいたします。

~同上書P366-367

マーラーの神経質さがうかがえる書簡だが、それほどに彼の音楽は難度高く、奏者への要求度も異常に高い。100年余りを経て、難なくクリアできるオーケストラは増えたのだろうが、それでも技術的に、かつ精神的に最高の演奏に出逢えると、至福をもたらしてくれる。

・マーラー:交響曲第7番ホ短調(アルフレード・カゼッラによる4手ピアノ編曲版)
シルヴィア・ツェンカー(ピアノ)
エヴェリンデ・トレンクナー(ピアノ)(1992.1.20-23録音)

まずは音楽の骨格、構造を捉えることが必須だ。「影のように」と指定のある第3楽章を中心として第1楽章とロンド・フィナーレが対称となる大交響曲において、やはりこのピアノ版の漆黒のイメージは、「夜の歌」という通称には相応しいが、マーラーの壮大な音楽を享受するという意味で弱い。

とはいえ、ピアノ独特の繊細な美しさは当然ある。
室内楽的な響きを求め、静かな心地でありたい夜にはこの方が向いているかも。
快適で静かな部屋でたった一人聴くにちょうど良い音楽。

ところで、カゼッラがマーラーと初めて会ったのは1909年の4月、パリにて。結果的には二人はほんの幾度かのコンタクトをとることしかできなかったようだが、交響曲第7番の編曲版そのものが彼らの交流の証となる。ちなみにこの版は、シェーンベルクの主宰する私的演奏家協会(1918-20)で幾度か取り上げられ、成功を収めたという。

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