インバル指揮フランクフルト放送響 ブルックナー 交響曲ヘ短調(1992.5録音)

質問というのはほかでもありません。あなたのお気持ちに期待を抱き、ご両親に求婚を申し出ることをお許しいただけますか? それとも愛の欠如が理由で、私との結婚を決断なされないでしょうか? この質問の真面目さはお分かりでしょう、できるだけ速やかで明確な、さよう、明確なお答えをいただきたいのです。どうかこの件は、ご両親以外の誰にも洩らされぬよう(厳重に秘密をお守りください)。
(1866年8月、ヨゼフィーネ・ラング宛ラヴレター)
田代櫂「アントン・ブルックナー 魂の山嶺」(春秋社)P66-67

この求愛は、ヨゼフィーネから拒絶され、敢え無く終了となるが、アントン・ブルックナーのこの場当たり的、というか向こう見ずな積極性は、彼の創造の源泉にもなっているように思われる。孤高の芸術。

「学校の宿題」という割に、構造的にも着想的にも傑作。
個性も随所に現われており、決して見逃せない交響曲。何とか一度は実演に接してみたいと思う。

4か月足らずで完成された『交響曲ヘ短調』は、キツラーに「特別な霊感は感じられない」と評された。後年ブルックナー自身もそのスコアに「(1)863年における学校の宿題」と書き込んでおり、そのため『習作交響曲』の名で呼ばれるようになる。だがこの曲を黙殺するのはあまりに不当であろう。確かにそれはブルックナー的語法と前期ロマン派の折衷物ではあるが、メンデルスゾーンやヴェーバーに通じる瑞々しさには聴くべきものがある。この頃に遭遇した『タンボイザー』の影響は、まだここには表われていない。
~同上書P53

巨大な第1楽章アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェから僕にはただならぬ「霊感」が感じられる(それは100数十年を経た今、巨匠としてのブルックナー知っているからかどうなのか)。ただし、いかにもブルックナーの作品だと感心させられるのは第2楽章アンダンテ・モルト。カトリック的安息と大自然の奧妙な息吹を感じさせる音調は、僕たちの心を癒す。また、第3楽章スケルツォも、すでに後年のブルックナーの方法が確立されており、いかにも素晴らしい(主部の激烈な野人の舞踏に対してトリオの柔和な歌)。そして、終楽章アレグロの宇宙的音響の拡がりと妙味。

・ブルックナー:交響曲ヘ短調(1863年)
エリアフ・インバル指揮フランクフルト放送交響楽団(1992.5録音)

フランクフルト・アム・マインはアルテ・オーパーでの録音。
インバルの仕事は抜群の出来。この、習作と考えられていた作品の重要性を(ある意味)世間に知らしめた功績は大きい。

長崎から福岡に至る癒しの旅の最後の夜に相応しい作品であり、また好演に感謝を送りたい。生きる喜びがここにはあり、希望の息吹に満ちている。

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