グルダ モーツァルト ピアノ・ソナタ第13番K.333ほか(1982.11録音)

バッハとモーツァルトはパラダイスからきた人。ベートーヴェンはパラダイスに到達しようと戦った人。だからまったく違うのさ。私はパラダイスという言葉が好きなんだよ。
(フリードリヒ・グルダ)

伊熊よし子さんのブログに、かつて彼女がグルダにインタビューしたときの言葉があった。僕は思わず膝を打った。
フリードリヒ・グルダが偉大な神童に徐々にアプローチを始めたのはようやく80年代に入ってからだった。彼にとってバッハとモーツァルト、そしてジャズの巨匠たちが師だった。彼の弾くモーツァルトは、奇を衒ったものでなく、転がすような美音で、心底音楽を楽しむという、オーソドックスでありながら、生気溢れる一期一会の名演奏だ。

音楽に共感し、慈しみの心でもって音楽を表現するグルダのピアノ。ベートーヴェンにもない、バッハにもない、おそらく彼がモーツァルトにだけ許した、脱力の中に天上の喜びが刻印されるソナタたち。

モーツァルト:
・ピアノ・ソナタ第12番ヘ長調K.332(300k)
・ピアノ・ソナタ第13番変ロ長調K.333(315c)
・ピアノ・ソナタ第15番ハ長調K.545
フリードリヒ・グルダ(ピアノ)(1982.11録音)

人生の絶頂に生み出されたソナタも、あるいは、人生のどん底で書かれたソナタも、いずれもがモーツァルトの天真爛漫な、そして純粋無垢な声。いずれも速過ぎず、遅過ぎず、理想的なテンポで音楽は描かれる。ただただ「信」という文字を顕すかのようにグルダは真摯に楽譜に向かう。まさに「愛」だ。

カセット・テープに収録された演奏だからか、音質そのものは決して良いとは言えない。しかし、あの、アナログの持つ温かみというのか、そういうものが音楽の隅々から醸し出されている。世知辛い現代の人々が失った、曖昧模糊とした、いい加減な(?)、美しいモーツァルトが僕たちを救う。感謝である。

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