ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル ブルックナー 交響曲第7番(1967.2.25Live)ほか

アントン・ブルックナーの最美の作品は、おそらく交響曲第7番ホ長調だろう。個人的には、ブルックナーに目覚めるきっかけとなった交響曲だ。

1882年、すでにご病気だったマイスターは、私の手を取りながらこう言われました。「ご安心なさい、君の交響曲とすべての作品を、私自身が演奏しますよ」「おお、マイスター」と私が答えると、マイスターは「もう『パルジファル』を観ましたか、どうでした?」と言われました。マイスターは私の手を握っておられたので、私はひざまずいてその手に接吻し、「おおマイスター、あなたを崇拝しております」と答えました。マイスターは「まあ落ち着きたまえブルックナー、ではおやすみ」と言われました。それが私への最後の言葉となりました。別の日に私が『パルジファル』を観ながら、あんまりうるさく手を叩くもので、後ろに座っておられたマイスターが、おどかすような仕草をなさいました。どうか男爵閣下、誰にもお話しなさらぬよう。これは私があの世へ持って行く、何より何より大切な思い出なのです!
(「バイロイト通信」編集人ヴォルツォーゲン宛)
田代櫂「アントン・ブルックナー 魂の山嶺」(春秋社)P202-203

ブルックナーの真面目な性格と、無邪気で素直な性質が見事に表現されたエピソードだが、尊崇するリヒャルト・ワーグナーが亡くなった時の彼の落ち込み様は大層なものだったであろうことが想像できる。

ある日私は、ひどく沈んだ気持ちで家に帰って来た。マイスターのお命はもう長くはないのではないか、そう考えていると、嬰ハ短調のアダージョが心に浮かんできた。
~同上書P203

ブルックナーの回想は何とリアルで、心がこもるのだろう。果たしてこの第2楽章アダージョが僕たちの心を打つのは当然だ。

・モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」K.527序曲(1968.11.29Live)
・ブルックナー:交響曲第7番ホ長調(1883年版/エフゲニー・ムラヴィンスキー校訂)(1967.2.25Live)
エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

いずれもレニングラード・フィルハーモニー大ホールでのライヴ録音。
例によって金管群の破壊的咆哮がブルックナーの楽想にそぐわない印象もなきにしもあらずだが、しかし、その血沸き肉躍る解釈を前にして、これほど生命力満ちる、劇的な交響曲第7番を僕はこれまで聴いたことがなかった。おそらく実演を聴いた聴衆は第1楽章アレグロ・モデラートに震え上がったのではなかろうか。また、深沈たる第2楽章アダージョの、冒頭から颯爽としたテンポで、想いを込めて進められる無心の指揮に感心ひとしきり。しかし、クライマックス部分を聴くにつけ、どうにもやかましさが耳につく。お蔭でワーグナー追悼のコーダも何だか軽く聴こえてしまうのが残念だ。強いて言うなら終楽章は、大人しい、実に調った、宇宙の鳴動を示すという点で聴き応え十分。

一方の、切れば血の滲み出るような「ドン・ジョヴァンニ」序曲の有機的響きに僕は思わず拝跪する。モーツァルトのデモーニッシュな側面を、フルトヴェングラーとはまた違った切り口でムラヴィンスキーは表現する。何より主部に入っての快速テンポはいかにも鉄壁のアンサンブルによって支えられ、モーツァルトの光と翳を見事に描写する。

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