クレンペラー指揮ニュー・フィルハーモニア管楽アンサンブル モーツァルト セレナード第11番K.375(1971.9録音)ほか

10月のある晩、床についていたモーツァルトは自分が住んでいる家の中庭でこのセレナードの演奏されるのを聴いて驚いたという。セレナードなどの楽曲の演奏になれていた楽師たちが、この美しい作品の作者に対して敬意を表するために、ちゃんと勉強したうえで奏楽したのであった。夜の静けさをやぶって鳴りひびいた自作の曲の変ホ長調の和音はたしかに彼の目をみはらせるほどのものだったと思われる。
「作曲家別名曲解説ライブラリー13 モーツァルトⅠ」(音楽之友社)P132

音楽は所詮娯楽である。
難しく考えるものでもなければ、襟を正して厳粛に耳を澄ますものでもない。
雑多な日々の中で、ながら聴きする、そんな無礼な調子で構わないものなんだと思う。

そこには想い出がある。ある時代の映像や、時には匂いまで刷り込まれた記憶を喚起する。
クレンペラーのモーツァルト。中でもセレナードなどは、実にリラックスしたムードで、聴き手に緊張を強いない、柔和で優しい演奏である。

モーツァルト:
・13管楽器のためのセレナード第10番変ロ長調K.361「グラン・パルティータ」
オットー・クレンペラー指揮ロンドン管楽五重奏団&アンサンブル(1963.1.26&12.10-13録音)
・セレナード第11番変ホ長調K.375
オットー・クレンペラー指揮ニュー・フィルハーモニア管楽アンサンブル(1971.9.20-21録音)

最晩年、最後のコンサート直前に録音されたセレナード変ホ長調のあまりの美しさ。何より第3楽章アダージョの脱力の音色は老練の棒の真骨頂だろう。あるいは、終楽章アレグロの愉悦。ただしこれは、おそらくアンサンブルの自律性に依るところが大きい。眼光鋭くクレンペラーは奏者を見つめ、奏者はただひたすらモーツァルトの遊びを純粋に音化するのである。

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