ショスタコーヴィチの無限

悠久のように流れゆく時間を肌で感じながら、一方であまりに現世的な、あまりに人間臭いドラマを現出する音楽を耳にすると、自分がどこにいるのか、そして今がいつなのか、ふとした瞬間にわからなくなる。最近は講座の関係で、以前よりは映像を伴ったもので音楽を視聴する機会が増えている。ショスタコーヴィチやマーラーという20世紀の音楽に限らず、モーツァルトだってベートーヴェンだって情報量が多い方が良いに決まっているということを今更ながら痛感する。先日の八王子でもベーム&ウィーン・フィルの映像を採り上げたことは良かった。もちろん墨田区でも映像を多用したが、これも良かった。10日後に始まる第2期講座ではいよいよ1講座につき一つの作品を採り上げて掘り下げるという試みをするが、基本はDVD(ないしはBD)、そして周辺の説明をするときにはCDを使用する予定。

ということでショスタコーヴィチに関してもできれば映像付で鑑賞した方がより理解が深まるだろうと、以前雅之さんからいただいたバーンスタインが晩年にウィーン・フィルハーモニーと録音したDVDをじっくりと。

ショスタコーヴィチ:
・交響曲第6番ロ短調作品54(1986.10.4-10Live)
・交響曲第9番変ホ長調作品70(1985.10.23-28Live)
レナード・バーンスタイン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(バーンスタインによるイントロダクション映像付)

同じ時期に収録されたCDは以前も採り上げたけれど、圧倒的にDVDで視聴する方に軍配が上がる。
ショスタコーヴィチの第6交響曲は、極めて斬新な形を持つ。楽器のソロが頻出し、しかも楽章を追うごとにテンポを速めてゆく様は、人間一人一人が十人十色で、それぞれが自分の個性を発揮し、人生をやりたいように思う存分駆け抜けるのが良いよとこれを聴く皆に諭しているよう。非常に興味深い。1939年という、第2次世界大戦が始まり、ソ連国内ではスターリンの独裁体制に飲み込まれていたあの時代、人々が自由を謳歌するなんて考えられなかったあの時代に、音楽を通してそのことを訴えかけるような思いを感じるのは僕だけだろうか。ともかく第5交響曲と第7交響曲という双生児に挟まれつつ、しかもそれらとは性格を異にする第6番の存在の重要性をここにきてやっと知ったような気がする。

一方の第9交響曲。こちらは終戦直後に完成した、アイロニカルでありながらやっぱり真新しさを醸し出す傑作。ベートーヴェンの第8交響曲と同様軽快な深遠さ、意味深さを持つ。この音楽についても、こうやって映像で確認しながら、そしてバーンスタインの秀逸な解説を教わりながら聴くことでより一層意味がわかるようになる。

いやはや、ショスタコーヴィチの無限を今更ながら体感する。
これは不幸か幸せか・・・、微妙な問題だ(笑)。


5 COMMENTS

雅之

こんばんは。

情報公開、大衆の権利保護、コンプライアンス、CSR・・・などと声高に叫ぶわりには、この現代社会、旧ソ連と閉塞感や息苦しさという意味ではあまり変わらないのかもと、ふと思うことがあります。政治の堕落・腐敗と組織の隠蔽体質、それに体制の制度劣化は目を覆うばかり、といういう共通点もあります。

そんな世の中だからこそ、ショスタコの音楽は、いかに人間として矜持を持ちつつ、且つ、したたかに生きていくかという点で、我々に強い説得力と共感や、示唆を与え続けてくれるのではないでしょうか。

バーンスタインのショスタコや、他にもたとえばシベリウスなどは、音だけと映像付きで、同じ演奏でもこれほど説得力に差があるのですから、少なくとも音盤だけで語り尽くせる指揮者では絶対にありませんよね。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
そうですね、どんなシステムも人間の欲望で作られていますから、理想はともかく現実は必ず最終的に破綻するものだと僕は思います。

>ショスタコの音楽は、いかに人間として矜持を持ちつつ、且つ、したたかに生きていくかという点で、我々に強い説得力と共感や、示唆を与え続けてくれる

同感です。そう考えると、今の時代もショスタコのような天才が現れてもいいようなもんですが。

>少なくとも音盤だけで語り尽くせる指揮者では絶対にありませんよね。

おっしゃるとおりです。DVDのイントロダクションをまだきちんと見ておりません。おそらく示唆に富んだ解説がされているように思うのですが、いかんせん英語なので「ながら」では無理です。今日あたりゆっくり聴き取ろうかと思っていたのですが、時間がありません。近々時間をとって感想などを書きたいと思います。
ありがとうございます。

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