クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィル ヨハン・シュトラウスI世 ラデツキー行進曲(1957.10録音)ほか

クナッパーツブッシュの愛した音楽は、ワーグナーやシュトラウスのほかに、ウィーンの音楽が加えられる。彼のヨハン・シュトラウスやヨーゼフ・シュトラウスのワルツの演奏は、これ以上のものがあろうかといえるほど、芳醇な味わいを示している。たとえばカレル・コムザークの〈バーデン娘〉などは、生粋のラインラント人のように、ウィーン情緒を馥郁とただよわせている。
ルーペルト・シェトレ著/喜多尾道冬訳「指揮台の神々—世紀の大指揮者列伝」(音楽之友社)P267

実にクナッパーツブッシュらしい、ゆったりと無骨なウィンナ・ワルツにうっとり。
巨匠にとっては朝飯前の一振りだったのかも知れぬ。しかしながら、内側から湧き出る愉悦は、ほかのどんな指揮者のものより上。音楽は、感じることが大事なんだと痛感する。

・ヨハン・シュトラウスI世:ラデツキー行進曲(1957.10.15-16録音)
・コムツァーク:ワルツ「バーデン娘」(1957.10.15-16録音)
・ヨハン・シュトラウスII世:アンネン・ポルカ(1957.10.15-16録音)
・ヨハン・シュトラウスII世:加速度円舞曲(1957.10.15-16録音)
・ヨハン・シュトラウスII世:トリッチ・トラッチ・ポルカ(1957.10.15-16録音)
・ツィーラー:ワルツ「ウィーンの市民」(1957.10.15-16録音)
・ヨハン・シュトラウスII世:ポルカ「浮気心」(1957.10.15-16録音)
・ヨハン・シュトラウスII世:ウィーンの森の物語(1957.10.15-16録音)
カール・ヤンツィク(ツィター)
・ウェーバー:舞踏への勧誘(ベルリオーズ編曲)(1960.2.15-17録音)
エマヌエル・ブラベッツ(チェロ独奏)
・ニコライ:歌劇「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲(1960.2.15-17録音)
・チャイコフスキー:バレエ音楽「くるみ割り人形」組曲(1960.2.15-17録音)
・ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲作品56a(1957.6.10-15録音)
・シューベルト:軍隊行進曲(ヴェニンガー編曲)(1960.2.15-17録音)
・ブラームス:大学祝典序曲作品80(1957.6.10-15録音)
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

リハーサルを嫌ったクナッパーツブッシュの演奏は、どんなときも即興的である。それでいて、音楽そのものは堂々と聴衆の心を打った。ほとんど一発録りであろうレコードの場合も、聴くたびに新鮮さを増す。

クナッパーツブッシュのいちばんの能力は―彼自身思っている以上にニキシュに近いのだが―楽譜に忠実であるにもかかわらず、ひとつの曲を演奏しても、それを毎回新しい曲のように生まれ変わらせることにあった。彼のテンポは毎回変わった。
~同上書P277

いつぞや購入した”Double Decca”と称する2枚組CD(1994年リリース)を久しぶりに聴いて思った。
どんな小品だろうとクナッパーツブッシュの手にかかれば大交響曲となる。音楽こそは感性と、そして呼吸が命なのだと。

クナッパーツブッシュは、ウィーン・フィルハーモニーの、またウィーン国立歌劇場の楽員と、生涯のあいだに177回共演したが、財政的にきびしい時代にも深い絆を失わなかった。彼は1938年から41年まで、8千マルクの俸給を辞退した。そして演奏会1回につき、500マルクという定額に甘んずることでよしとした(フルトヴェングラーも同じ申し出を行なった。一方、カール・ベームは1回の公演でいつも受けとっている2千マルクを、なに食わぬ顔でポケットに収めていた)。
~同上書P271

こういうエピソードを知れば、彼の演奏がますます本物だと知ることになる。
どんなに無粋な態度をとっても、クナッパーツブッシュは謙虚な人であり、すべてへの感謝に溢れる人だった。

彼は聴衆に対して、ときには過度ともいえる無作法な態度に出たとはいえ、彼ほど聴衆から愛された指揮者もいない。戦後彼がミュンヘンで指揮活動の禁止の追い討ちを受けたとき、人々は街頭デモを行ない、不当な禁止だと強く訴えた。そのため占領軍はついに禁止の撤回を余儀なくされたのである。
~同上書P276

聴けば聴くほどその意味深さに納得させられるのがハンス・クナッパーツブッシュの芸術。
自然体の「くるみ割り人形」を耳にすればわかる。慈悲の人だとあらためて思う。

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