ブーレーズ指揮シカゴ響 バルトーク パントマイム音楽「中国の不思議な役人」ほか(1994.12録音)

あぁ、パリの演奏会が終わったよ!(中略)5時からの演奏会の後、夜8時からプルニェール家で(打ち上げなしで)晩餐があり、そこにはラヴェル、シマノフスキー、ストラヴィンスキー、にバルトークが集まった。つまり、音楽史上特筆すべき出来事が起こったわけだ(とイェリーが言ったんだ)。あとはシェーンベルクさえいてくれればね。夕食の後、さらにミヨー、プーランク、オネゲル、アルヴェール・ルーセル、そしてマリア・フロイント、カプレ(指揮者)、あるいは他にも多くの音楽家やアマチュアがやって来た。この選りすぐりのメンバーの前で、僕たちはもう一度ソナタを演奏した。
(1922年4月10日付、バルトークの妻宛手紙)
伊東信宏著「バルトーク―民謡を『発見』した辺境の作曲家」(中公新書)P136

確かに現代音楽史の飛び切りのトピックスの一つである。

構造は歪むために作られるのであり、身振りになるために作られるのです。
(ピエール・ブーレーズ)

事象は、相反する事象のためにあり、互いは必然であり、必要なのだということだ。何事も表裏の内にある。そんな中で、天才たちは真理を見抜くために鎬を削って来た。まさに「仮を借りて真を知る」。

難解だといわれたバルトークの作品たちも、機が至れば決して難しいものには当たらない。一見歪んでいるような音楽も、実に計算された構造の中にある。ベラ・バルトークの作品ならばなおさらだ。また、ブーレーズの指揮する作品ならば一層そうあるはずだ。

バルトーク:
・パントマイム音楽「中国の不思議な役人」作品19 Sz.73(1919-25)
・弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽Sz.106(1936)
シカゴ交響合唱団
ピエール・ブーレーズ指揮シカゴ交響楽団(1994.12録音)

いかにもバルトークが興味を示すであろうグロテスクな台本には違いない。メニヘールト・レンジェルによるこの物語は、人間の持つ過剰な欲望が悪因となり、悪果を招き、無限の輪廻を超えられないことを諭すもののように思えるが、偏愛気質の役人が中国人であるところがまた意味深だ。しかし一方、音楽は実にエネルギッシュかつパッショネートであり、しかも変拍子を多用した、エキゾチックな趣きの傑作。ブーレーズの知的で無慈悲な(?)アプローチがまた音楽と同期していて素晴らしい。

無から有へ、混沌から調和へ。弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽は、これまた冷徹な、色香を排した(しかしそれでいて色彩は豊かでまた気は揺れ動くのだから素晴らしい)、精緻な設計の最高の出来栄え(第1楽章アンダンテ・トランクィロ7分55秒、第2楽章アレグロ7分35秒、第3楽章アダージョ7分27秒、そして終楽章アレグロ・モルト7分27秒)。

対立するすべてを包含して観るバルトークの鑑識眼とセンス。

われわれの時代の音楽は、無調の方向に決定的に向かっている。だが、調的な原理と無調の原理とが、完全な対立物であるとは私には思えない。後者はむしろ、調的なものの継続的な発展の帰結であり、そこには漸進的な変化があるのであって、断絶や暴力的な跳躍などはないはずである。
「新音楽の問題」(1920)
ベーラ・バルトーク/伊東信宏・太田峰夫訳「バルトーク音楽論選」(ちくま学芸文庫)P190

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