ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル ショスタコーヴィチ 交響曲第8番(1960.9.23Live)

交響曲第8番ハ短調作品65。英国初演の記録。
あらゆる演奏を凌駕する随一、奇蹟のパフォーマンスだと僕は信じている。

ロイヤル・フェスティバル・ホールでは、レニングラード・フィルの楽員たちが熱意をもって待機している4回のコンサートがまだ残っていた。ワレンチン・スタドレルは回想している。「私たちは英国文学、特にジョン・ガルスワーシーを読んでいたことから、英国人は冷淡で感情に欠いていると思っていたので懸念していた」。しかし、ショスタコーヴィチの第8番のトッカータの演奏でセンセーションを起こしていた、首席トランペットのヴェンジャミン・マルゴリンは語っている。「ロンドンの大公園を散歩する機会を楽しんだが、私たちはひとつひとつの演奏に対する責任を自覚していた。観客席は満席ではなかったが、我らがショスタコーヴィチが聴衆の中に坐っているのを見て、これが私たちの演奏に良心と責任感とを加えた」。音楽上の大事件が起きようとしていた。
グレゴール・タシー著/天羽健三訳「ムラヴィンスキー高貴なる指揮者」(アルファベータ)P236

作曲者の臨席があったこと、一方、当日の会場が満席でなかったことがまたリアルな記録であり、想像するだけで興奮を覚える文字通り音楽史上最大の事件のひとつといえる。
ムラヴィンスキーの音楽は隅から隅まで研ぎ澄まされ、絶対的権力を振りかざす帝王に反発するものはなく、ショスタコーヴィチの傑作の前に跪くかのようにオーケストラ団員は熱意と誠意をもって音楽に奉仕する。

・ショスタコーヴィチ:交響曲第8番ハ短調作品65
・モーツァルト:交響曲第33番変ロ長調K.319
エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団(1960.9.23Live)

息を飲む聴衆の醸す静寂と緊張感の中で音楽は煌々と鳴り響く。
抜群の技術と鉄壁のアンサンブルは、レニングラード・フィルのそれ。もはやこれ以上のものを要求することが不可能な、ただ一度きりのドキュメントは、60余年の時間と空間を超え、強い説得力をもって僕たちの心の揺さぶるのである。

終演後の、徐々に拡大して行く拍手と喝采の荘厳さ。

この交響曲ほど—今世紀に作曲されたすべての中で、もっとも独創的なもののひとつ—これまで私を興奮させたものはなかったが、この演奏によって、完全に私は打ちのめされた。その本質と才能は音楽を超越していた。フルシチョフ自身が指揮していたのかもしれない。
(マンチェスター・ガーディアン紙ネヴィル・カルダス)
~同上書P237

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