物語も音楽も、あくまで「人間ドラマ」の枠から決してはみ出さない。それがリヒャルト・シュトラウスだ。「サロメ」も「エレクトラ」もギリシャ悲劇の雛型を借りながらそこに通底するのは人間の意思と感情。シュトラウスの作品がワーグナーと決定的に異なる点はそこだと僕は思う。少なくともワーグナーには魂までも震撼させる「何か」がある。しかし、シュトラウスにはそれはない(良い悪い、あるいは優劣の問題ではなく。とはいえあくまで僕の私的見解)。
ホーフマンスタールとの共同作業の最後の作品。「アラベラ」の中心は「歌」ではなく「音楽」だ。言葉でない「音楽」によって人間の心理、心の機微を具に表現したこの傑作は、老練のシュトラウスの腕に依るところもちろん大だが、台本作家との半ば袂を分かつほどの強烈な意志のぶつかり合いがあってはじめて成し遂げられた「大事業」であると断言できる。しかもホーフマンスタールは歌劇の完成を待たず、台本完成からわずか5日後に世を去っているのである。
リヒャルト・シュトラウス:歌劇「アラベラ」作品79
カール・クリスティアン・コーン(ヴァルトナー伯爵、バリトン)
リーザ・デラ・カーザ(アラベラ、ソプラノ)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(マンドリーカ、バリトン)
アンネリーゼ・ローテンベルガー(ズデンカ、ソプラノ)
イーラ・マラニウク(アデライーデ、メゾソプラノ)、ほか
ヨーゼフ・カイルベルト指揮バイエルン国立歌劇場管弦楽団&合唱団(1963.8Live)
物語のあらすじはどうってことのない日常。しかし、管弦楽の色彩豊かな響き、メロディの美しさなど繰り返し聴くたびにその魅力にとりつかれてゆく・・・。
第2幕の冒頭、アラベラに惚れ込んだマンドリーカが告白、プロポーズするところからアラベラがそれを受け入れてゆく過程のやりとりが堪らない。
アラベラの独白。
私にふさわしい人・・・口に出さずつぶやいたその人・・・
その私にふさわしい人が・・・一人ここにいて・・・
目の前にいきなり立ったなら・・・私そう言ったわね・・・
私を見つめ、私も見つめ返したら、
もう言い逃れたり
問いかけたりはしない・・・
いいえ!太陽の光にきらめく川面を
見つめるように、全てがはっきり見えているの!
シュトラウスの音楽の魔法!デラ・カーザの美しさ!!ディースカウの優しくも堂々たる歌唱!!特に、本CDにおける2枚目の冒頭「あなたこそ私を支配する人」の何たる艶やかで愛らしい歌!!そして管弦楽の美しさ!!
アラベラ:
あなたこそ私を支配する人、
私はあなたに従います。
これからは、あなたの家が私の家。
お墓の中まで付き添ってまいります。
マンドリーカ:
世界で一番美しい人・・・君を崇めずにはいられない・・・
カイルベルトのこのミュンヘンでのライブは50年以上を経た今でも語り継がれる「アラベラ」の最右翼の演奏だが、この部分だけ採り上げてもその素晴らしさが理解できるというもの。ここだけを何度も繰り返して聴いていたいくらい・・・。(笑)
宮城県気仙沼市での有意義な一日。「アラベラ」で乾杯!!
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