The Beach Boys “20/20” (1969)

皮肉、そして矛盾。
相対世界の現象の多くはそういうものに満ちている。
ついにジャケットからブライアンが消えたアルバム”20/20”は、商業的にはまったく奮わなかったビーチ・ボーイズの問題作だ。しかし、半世紀を経た今あらためて聴いてみると、駄作どころか、他のメンバーの創作力に溢れた、ブライアンに頼りきりだったビーチ・ボーイズの、各々が自律的に関わった再生の第一歩となる逸品であることがわかる。

カールがアレンジし、ヴォーカルを取った”I Can Hear Music”の開放的な素晴らしさ。
お蔵入りとなったアルバム“Smile”に収録される予定だったブライアン作の”Our Prayer”と”Cabinessence”の、他とは毛色の異なる新しい響きが今なお美しい。そして何より、当時全米中を震撼させたカルト教団教祖チャールズ・マンソン作の”Cease to Exist”をもとにデニスが改作した”Never Learn Not To Love”の、表立っては感じられない架空の(?)狂気が興味深い。

・The Beach Boys:20/20 (1969)

Personnel
Al Jardine (vocals, acoustic guitar, handclaps)
Bruce Johnston (vocals, organ, handclaps, piano, Fender Rhodes)
Mike Love (vocals, handclaps)
Brian Wilson (vocals, piano, organ, Chamberlin, handclaps)
Carl Wilson (vocals, acoustic guitar, electric guitar, bass, handclaps, congas, tambourine)
Dennis Wilson (vocals, drums, handclaps, piano)

マンソンは原曲は自分が書いたのだから共作としてクレジットすべきと主張、デニスがとりあわないとなるや「殺してやる」と脅迫めいた行動に出る。その後シャロン・テイト事件で逮捕されたことによって難は逃れたものの、場合によってはデニスが標的になっていた可能性もある。もちろん、この曲をレコーディングしていたころはまさかそういう事態になろうとは夢にも思っていない。なおブライアンはかねてからマンソンを危険人物として敬遠していたという。ブライアンとマンソン、たがいの狂気に通じるものがあったのだろうか。
中山康樹著「ビーチ・ボーイズのすべて」(枻文庫)P236

自分の内にあるものでしか人は人を測ることができないことを考えると、確かにブライアンとチャールズ・マンソンの狂気には共通性があったのかもしれない。背景は何にせよデニス・ウィルソン作の”Never Learn Not To Love”は佳曲だ。

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