バレンボイム モーツァルト ピアノ・ソナタ第4番K.282ほか(1984.12録音)

神様は、うちの子供たちに並々ならぬ才能を与えてくださいました。たとえ父親の義務を考えなくても、この子たちに良い教育を与えるためにすべてを犠牲にしようという気を起すほどです。うちの子供たちには勉強をする習慣がついていますが、とくにヴォルフガングが、どれほどまだ多くのことを学ばねばならぬか、御存じの通りです。
(1766年11月5日付、レオポルトから家主ハーゲナウアー宛)
「モーツァルト事典」(冬樹社)P216

ヴォルフガングの天才を見抜いた父レオポルトの慧眼。
神童が身体に鞭打ちあちこち旅をすることになったのには、レオポルトの愛ゆえの厳しい教育があったからである。もちろん現実的に金銭を稼ぐ術として神童への期待も大いにあったのだと思う。

おそらく旅の途上の、ミュンヘンのパトロンであったデュルニッツ男爵のために作曲されたソナタたち。20歳にもならない少年が書き上げたとは思えない、人生の酸いも甘いも体験した後の創造物のような完成された音楽に言葉がない。特に、いずれの緩徐楽章にもある、何とも表現し難い哀感に心が揺さぶられる。

モーツァルト:
・ピアノ・ソナタ第1番ハ長調K.279
・ピアノ・ソナタ第2番ヘ長調K.280
・ピアノ・ソナタ第3番変ロ長調K.281
・ピアノ・ソナタ第4番変ホ長調K.282
ダニエル・バレンボイム(ピアノ)(1984.12.20-23録音)

初期ソナタが愛らしい。というよりもはやどこをどう切り取ってもすでに完璧であるところがモーツァルトのすごさ。そして、そのソナタたちを堂々たる風趣を醸し音化するダニエル・バレンボイムの手腕。中でもソナタ変ホ長調K.282が圧倒的に美しい。
遅いテンポで悠々と歌われる第1楽章アダージョの永遠、あるいは、力強い第2楽章メヌエットの(やはり)憂愁。そして、終楽章アレグロでは、18歳のモーツァルトの可憐な愉悦が豊かに弾ける。

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