ハーゲン四重奏団 モーツァルト アイネ・クライネ・ナハトムジークK.525(1994.4録音)ほか

コンスタンツェ・ウェーバーとの結婚にまつわるモーツァルト父子の断絶の様子が興味深い。
ヴォルフガングの懇願する、祈るような思いが手紙から伝わる。

この問題については、あれ以上何も書くことがありません。新しいことはまったくありません。ですから、ごきげんよろしゅう。もう一度お許しをお願いします。そして、ぼくに対して寛容と同情をお願いします。愛するコンスタンツェなしには、ぼくは幸福にも陽気にもなれません。そして、そのことでご満足をいただかなければ、ぼくの満足も半分にしかなりません。ですから、どうかぼくを、すっかり幸福にしてください。最愛の、最上のお父さん! お願いです。
(1782年1月9日付、父レオポルト宛)
柴田治三郎編訳「モーツァルトの手紙(下)」(岩波文庫)P44

互いにわかり合えない気まずさにヴォルフガングの大いなる失意を思うが、そんな中でもモーツァルトの作曲の筆は大いに健在だった。弦楽四重奏曲第14番ト長調K.387。1781年12月31日完成。

ハーゲン四重奏団の、モーツァルトへの明朗で快活な思念が映える。音楽はどこまでも純粋無垢だ。あるいは、1783年6月中旬の完成だといわれる弦楽四重奏曲第15番ニ短調K.421(417b)の高尚な響きよ。楽想によって表現を変える若き四重奏団の力量よ。

モーツァルト:
・弦楽四重奏曲第14番ト長調K.387(1999.3&4録音)
・弦楽四重奏曲第15番ニ短調K.421(417b)(1995.4録音)
・アイネ・クライネ・ナハトムジークト長調K.525(1994.4録音)
ハーゲン四重奏団
ルーカス・ハーゲン(第1ヴァイオリン)
ライナー・シュミット(第2ヴァイオリン)
ヴェロニカ・ハーゲン(ヴィオラ)
クレメンス・ハーゲン(チェロ)
アロイス・ポッシュ(コントラバス)

父レオポルトが亡くなってまもなく生み出されたアイネ・クライネ・ナハトムジークの簡潔な音色が愛らしい。最晩年の困窮の中で書き下ろされた渾身の名作が、何と可憐に、しかし何と哀感を帯びて心に響くのだろう。かねてより確執のあった父との永遠の別れがヴォルフガングにもたらしたものは哀しみ以上に自由と開放感だったのだろうか。ピリオド奏法に影響を受けたようなハーゲン四重奏団による第1楽章アレグロが不思議に切ない。

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