
抑圧された魂の発露なのかどうなのか。
古い録音から湧き上がるあまりの熱量に頬が火照る。
ここにはチェロの献身がある。
歌い、そして弾ける情熱と、希望をもって生きようとする固い意志が隅々から感じられる。これぞムスティスラフ・ロストロポーヴィチ!!
何と理想的なテンポ!薫る音色。
ブラームスの、暗澹たる表情の第2楽章アダージョ・アフェットゥオーソの懐かしさ。そして、第3楽章アレグロ・パッショナートの漲る生命力。
ダーヴィト・ポッパーを始めとする小品を弾かせても、ロストロポーヴィチの音は深い。図太くまた繊細な音に引き込まれそうになるくらい。深淵を覗くような途轍もない深遠さが彼ならでは。ドビュッシーの「月の光」は何と甘く切ないのだろう。
素晴らしいのは、ピアティゴルスキーの編曲によるスクリャービンのエチュード!!
揺れる音調というのか、言葉にしがたい不安定さがスクリャービンの音楽の特長だが、それをロストロポーヴィチのチェロが堅牢な音で包み込むのだから堪らない。音楽は光彩を放ち、聴く者の心に迫る。
神々よ、我が神々よ! 宵の大地の何と物悲しいことか! 沼地にかかる霧の何と神秘的なことか! こうした霧の中をさ迷い歩いたことのある者、死を前に苦しみ多かりし者、力に余る重荷を背負ってこの大地の上を飛んだことのある者なら、それを知っている。それを知る者は疲れ果てた者だ。そしてその者は惜しみなく大地の霧やその沼や川を捨て、軽やかな心で死の腕に身を委ねる、ただそれだけが我が身の安らぎと知りつつ。
~ミハイル・ブルガーコフ/法木綾子訳「巨匠とマルガリータ(下)第2の書」(群像社)P215
すべては所詮幻想だ。
自らの内側の、心の動きを常に監督せよとブルガーコフは言う。
ロストロポーヴィチのチェロも然り。