Eagles “One of These Nights” (1975)

「ホテル・カリフォルニア」(Hotel California)を聴いた渋谷陽一は次のように批評した。

このアルバムで歌われているカリフォルニアは太陽とサーフィンの夢の国としてのカリフォルニアではない。そうしたカリフォルニアの代表選手であったイーグルス自身が、カリフォルニア幻想を否定したのである。
アメリカのバンドの中で最もアメリカ的であり、アメリカ的である事を誇っていたイーグルスがそれを否定した。詳しいファンに言わせると、あれはポーズなのだそうだが、イーグルスをほとんど知らない僕としては、本音として聞いた。それがミュージシャンに対する礼儀だとも思う。

渋谷陽一著「ロックミュージック進化論」(日本放送出版協会)P144

そもそもカントリー・ロックの旗手として出発したイーグルスが、アルバムのリリースと共に変化を遂げていった中で、分岐点はフォース・アルバム「呪われた夜」(One of These Nights)であり、また最終解答が「ホテル・カリフォルニア」(Hotel California)だっただろうことを考えると、初期の能天気で(?)懐古的なサウンドと、いかにも自己批判的ロック音楽の中庸が表現される「呪われた夜」(One of These Nights)はひょっとすると、「ホテル・カリフォルニア」(Hotel California)以上にイーグルスの代名詞的存在のアルバムで、ここにこそ彼らが表現したかったすべてがあるのではないだろうか。

中でも、バーニー・リードンが作曲し、他のメンバーが気に入らず、バーニーに脱退の決意を後押ししたとされるインストゥルメンタル・ナンバー「魔術師の旅」(Journey of The Sorcerer)の力強い哀愁と、美しいメロディラインに僕は惹かれる。
オンタイムで聴いたわけではないのに、バンジョーやマンドリンの音に何だかとても郷愁を誘われるのだ(実にイーグルスの真価はこういうところにあったのだと思う)。

・Eagles:One of These Nights (1975)

Personnel
Glenn Frey (vocals, guitars, piano, electric piano, harmonium)
Don Henley (vocals, drums, percussion, table)
Bernie Leadon (vocals, guitars, banjo, mandolin, pedal steel)
Randy Meisner (vocals, bass guitar)
Don Felder (vocals, guitars, slide guitar)

ドン・ヘンリーがリードをとるタイトル曲はもちろんのこと、グレン・フライが歌う”Lyin’ Eyes”やランディ・マイズナーのリードの”Take It to the Limit”などいかにもイーグルスらしい美しいメロディ連発の印象が今もって最高だ。
ちなみに、本アルバムをもってバーニーは脱退するが、その経緯が興味深い。そこではバンド内の紛争というか、個性と個性の、我と我のぶつかり合いこそが、ロック音楽創造の源泉であることを知る。それにしても、バーニーが当時交際していたパティ・デイヴィス(ロナルド・レーガンの娘)との共作である「安らぎによせて」(I Wish You Peace)の後ろ髪を引かれるような、涙を誘う音調に心が揺れる。

カリフォルニアへの約束、
あるいは内陸にはいって、牧羊に適した大平原、さらに進んでピュージット湾やオレゴンへの約束、
もうしばらくは東部にいるが、やがてぼくは旅立って君のところに腰をすえ、逞しいアメリカの愛を伝授する、
そもそもぼくや逞しい愛の古里は君のところや、内陸や、西部の海岸あたりだとぼくは充分知っているのだ、
現にこれらの諸州は内陸のほうへ、西部の海のほうへと進んでおり、ぼくもそうするつもりでいる。

「カリフォルニアへの約束」
酒本雅之訳/ホイットマン作「草の葉(上)」(岩波文庫)P324

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