
汲めども尽きることのない創造の泉。
8月にドレスデン、テプリツ、カールスバートなど保養地に心身を休めたのち、9月に弦楽四重奏曲が試演されて成功をおさめると、クラーラの誕生日である9月13日にヘンゼルトとゲーテの孫ヴァルターを招待して、これらを内輪で初演した。演奏はダーヴィト四重奏団である。この充実感から、9月23日から3週間でピアノ五重奏曲が生まれ、ピアノ四重奏曲も10月30日に完成した。ピアノ五重奏曲は、イメージの豊かさと構想の確かさ、改訂への決断と推敲にシューマンの作曲方法が集約され、ロマン派室内楽の最高傑作に数えられる。
~藤本一子著「作曲家◎人と作品シリーズ シューマン」(音楽之友社)P77
ロベルト・シューマンの傑作の一つ。音楽は終始喜びに弾け、聴く者を魅了する。クララがコンサートのレパートリーに加え、頻繁に取り上げたことから当時から有名な作品だったようだ。批判的だったリヒャルト・ワーグナーでさえ賞賛したというのだから素晴らしい。
大変気に入りました。2回演奏してくださるよう奥様にお願いしました。とくに最初の2楽章が生き生きしていると感じ、第4楽章はもう一度聴くともっと気に入ると思いました。
(1843年2月25日付、ワーグナーからシューマンへの手紙)
~同上書P77
わかりやすく美しい旋律に富み、全体のバランスの良さが作品に一層の生気を与えているようだ。
情熱ほとばしるリヒテルの弾くシューマン。ライヴならではの勢い、内に向かう暗澹たる悪魔性と、ボロディン弦楽四重奏団の外へ向かう開放性が見事に中和された名演奏だと僕は思う。特に、ピアノの沈潜と爆発の対比が冴える第2楽章イン・モード・ドゥナ・マルチアがことのほか美しい。
一方、シューベルトの弦楽四重奏曲「死と乙女」は、実に客観的で静かな演奏だ。第1楽章アレグロは堂々たる風趣に満たされ、シューベルトの繊細な世界が、主観を排して奏される様子に当時のボロディン弦楽四重奏団の尋常ならざる力量が垣間見られる。また、哀感漂う第2楽章アンダンテ・コン・モートの虚ろな響きは、若きシューベルトの鬱屈された本性の投影であり、憤懣やるかたない情念が同じく静かに表現される名演中の名演。短い第3楽章スケルツォを経て終楽章プレストは厳しい試練を乗り越えた老境の悟りの音楽のようで実に素晴らしい。
ある男が驢馬を一ぴきもっていました。このろばは、もう永の年月ふくろをしょって、倦まずたゆまず粉ひき場へかよいつめたものでしたが、さすがに、いよいよ力がつきて、だんだん仕事の役にたたないようになりました。そこで、飼いぬしは、ろばに餌をやるのはよそうと考えたものです。すると、ろばのほうでも風むきのよくないのを気どって、ここを逃げだすと、ブレーメンへむかって、とことこ出かけました。あすこへ行けば、市のおかかえ楽隊になれるかもしれないと、そう思ったからです。
「ブレーメンのおかかえ楽隊」(KHM27)
~金田鬼一訳「完訳グリム童話集1」(岩波文庫)P275
意志を持つことが大切だ。