The Doors “Morrison Hotel” (1970) / “L.A. Woman” (1971)

1970年のジム・モリスン。

ジムの健康はかんばしくなかった。マルボロを1日に3箱。がさがさした咳。ロビーによれば、血を吐いたこともあるという。
彼の声は、荒々しいエッジとセクシーさを保ってはいたが、取り返しのつかないダメージも受けていた。『LA.ウーマン』のラフ・テープを聴いたジャック・ホルツマンは、「ヴォーカリストとしてのジムの生命は、このアルバムで終わりだ」と思った。
このころのジムの体重は78キロ、ドアーズの最初のパブリシティ用写真で、薄い胸を見せてた頃から、18キロあまりも太っていた。彼はたいした食事も摂っておらず、カロリーのほとんどがアルコールからだ。その体は酒でむくんでいた。

ジェリー・ホプキンス/ダニエル・シュガーマン/野間けい子訳「ジム・モリスン 知覚の扉の彼方へ」(シンコー・ミュージック)P280

ロック・ミュージシャンとはともすると自虐的なものだ。
存命中最後のアルバムとなった”L.A. WOMAN”は確かに、ファースト・アルバムの鮮烈な印象はもはやなく、愚鈍で暗澹たる色に染まっている。しかし、それがまた危険な、破れかぶれのジムの投影であり、発表から50年以上経た今となっては他の何物にも代え難い不朽の名盤だと評することも可能だろう。

The Doors Music Video L.A. Woman (1971)

・The Doors:L.A. Woman (1971)

Personnel
Jim Morrison (vocals)
Robbie Krieger (guitar)
Ray Manzarek (piano, organ)
John Densmore (drums)
Jerry Scheff (bass)
Marc Benno (rhythm guitar)

何という重さ。何だかアルコール漬けで全身が浮腫むジム・モリスンの姿態をそのまま表しているかのような音調に、40年近く前初めて聴いたとき僕は慄いた。以後、しばらくこのアルバムを二度と聴くことができなかったのだが、幾何かの熟成期間(?)を経てあらためて耳にしたとき、その退廃的な匂い溢れるアルバムにある種高踏的芸術性を感じたのも確かだ。
ジムのがさがさした声はセクシーだ。タイトル曲の、唸るジムのヴォーカルに応え、懸命に弾けようとするバンドの姿勢には悲哀すら感じられる。そして、ショパンの「英雄ポロネーズ」からの引用を含む”Hyacinth House”の無理強いされた(?)愉悦の感よ。

The Doors Hyacinth House (1971)

一方、そのわずか1年前のジムの創造力は桁違いに旺盛だった。

「モリスン・ホテル」は、ロサンジェルスのダウンタウンにある実在のホテル。1泊2ドル50セントの安ホテルだ。レイとドロシーが週末にドライヴしていて、偶然にその看板を見つけた。このアルバムには、1969年のアメリカを象徴する、興味深いナンバーのいくつかが収められている。
~同上書P233

すべてのナンバーが何て魅力的なのだろう。とりわけ、自然を歌う楽曲”Waiting for the Sun”、あるいは”Indian Summer”の見事さ。ここには自然児たるジム・モリスンの神髄が秘められているように思う。

・The Doors:Morrison Hotel (1970)

Personnel
Jim Morrison (vocals)
Ray Manzarek (piano, organ, tack piano, electric piano)
Robby Krieger (guitar)
John Densmore (drums)
Ray Neapolitan (bass guitar)
Lonnie Mack (bass guitar)
John Sebastian (harmonica)

アルバムの劈頭を飾る”Roadhouse Blues”はもちろん天下の逸品。

The Doors Roadhouse Blues

誕生パーティの翌日、ジムはオフィスで目覚めた。冷蔵庫からビールを出し、ぼけっと長椅子に座って飲んでいた。いっさいのゴタゴタから逃げ出したかった。
やがてビルやスタッフが出社してきた。ジムは、その朝のロサンジェルス・タイムズを広げて、ぼんやりと目を通し始める。東南アジアのヴェトナム化が進行していた。インディアンがアルカトラズ島を占領して、3週間目に突入。そして昨日、つまりジムの誕生日に、ブラック・パンサーとロサンジェルスの警察隊が、4時間にわたる銃撃戦を展開。大陪審は、チャールズ・マンスンと4人の共犯者を、シャロン・テートたちの殺害で起訴した。
ジムはくらくらする頭を押さえながら、新聞をおいた。
「俺はもう・・・」ジムは、ゆっくりとつぶやいた。「神経がまいってる・・・」

~同上書P237

そのときあったすべての才能をつぎ込んで生み出したのかとも思える名作に心が躍る。

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