The Beach Boys:Ten Years Of Harmony

ビーチ・ボーイズはブライアン・ウィルソンの神経衰弱によるドロップ・アウト以降急速に人気が下火になるのだが、70年代の彼らは、実は地味どころかそれまで以上に一層洗練されたレベルの高い作品群を世の中に送り出していた。そのすべてをきちんと聴いたわけではないので詳細に云々することはできないが、少なくとも1981年にリリースされたベスト・アルバムを聴くだけでそのことは十分に理解できる。

僕の70年代はちょうど小学校入学に始まり、中学校卒業で終わる。そう、物心ついた頃から思春期前半をこの時代に過ごしたことになる。当時の世間の動きについては子どもだけあって何の認識もなかったが、今更ながら振り返ってみると、何だか嘘と虚飾に塗りたくられた時代だったように思えてならない。いわゆる大阪万博に始まった日本の70年代は順風満帆で確かな経済成長を遂げてゆくように見えたが、裏では現在の諸問題の根源になっている種が撒かれた時代でもあった・・・。

もう少し後ろに下がって世界を俯瞰してみると様々なことがよく見える。例えば、ポピュラー音楽の歴史においても、ビートルズの解散を節目にして一般大衆が怒涛のように巻き込まれた時期で、「音楽」という世界が一大産業としてどんどん肥大化してゆく。そのことはすなわち音楽的に傑作が次々に生み出されてゆくということに他ならないのだけれど、それによって「わかりにくい」作品群は一気に葬られてゆくことになる。少し短絡的な物言いだが、結局どのジャンルも(その時代にマッチして)キャッチーでないと「売れない」のである。そして、「売れない」と表舞台からそのアーティストは遠ざけられる。70年代のビーチ・ボーイズは不遇だった。それでも、やっぱり彼らは天才だ。セールス的に揮わずとも良い音楽を書き続けたのだから・・・。

The Beach Boys:Ten Years Of Harmony, 1970-1980

Personnel
Mike Love (vocal)
Dennis Wilson (vocal, drums, keyboards)
Alan Jardine (vocal, guitar, bass)
Brian Wilson (vocal, bass, keyboards)
Carl Wilson (guitar, vocal, keyboards, bass)
Bruce Johnston (vocal, keyboards, bass)

70年代のビーチ・ボーイズの音楽は郷愁に溢れ、哀感に満ちる。聴いていて見事に切なくなる。それは、ブライアンの実質不在によるところが大きいのか、それは僕にはわからないけれど、各々の楽曲の完成度は並大抵でなく、今もってまったく色褪せない。
ちなみに、2枚組のこのセット、”Add Some Music To Your Day”からスタートする。いつもどんな時にも音楽がそばにある。音楽こそが癒しなんだ。素敵。

The Sunday mornin’ gospel goes good with the soul
There’s blues folk and country
And rock like a rolling stone
The world could come together as one
If everybody under the sun
Add some music to their day

ブルース・ジョンストン作の”Disney Girls”なんて不朽の名作。
2枚目に移ると、冒頭は山下達郎が30年前にカヴァーした”Darlin’”。何て美しい相変わらずのハーモニー。アルの作った”Lady Lynda”の前奏はバッハの「主よ、人の望みの喜びよ」からの引用だが、これがまた上手くアレンジされていて涙を誘う。そして、言わずと知れた”Surf’s Up”はブライアン屈指の傑作。

カールが作曲した”Feel Flows”は、ほとんど知られていないだろう作品だと思うが、何ともエスニックかつアバンギャルドな曲調で、聴いていてとても不思議な気持ちになる。続くラストの”’Til I Die”はブライアン作で、おそらく彼自身の病気の反映だろう随分屈折した曲調なのだけれど、抜群のコーラス・ワークによって一切の弛緩なく聴かせてくれるところが妙味。

 

 


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