Art Blakey and the Jazz Messengers “Moanin’” (1958)

目で見、耳で聞き、鼻で嗅ぎ、舌で味わい、皮膚で感ずるという、いわゆる人間の五官の機能は例えばいくら超人間的であるといっても目で音をきき、耳で光を見るわけにはいかない。しかし芸術家たちのイマジネーションの極限状況には、心理学的に説明のできないことでも、まるで自由に五官を越えた世界を感じとり、そしてそれを五線の上に、あるいはカンヴァスの上に目に見えるものとして実在させてくれる。インスピレーションとはそういうものを指しているのであろう。
(利根山光人「色彩と音楽」)
辻邦生編「絵と音の対話」(音楽之友社)P71

アート・ブレイキーを聴きながら、音楽の内側にある色彩と、60余年を経ても色褪せない音の力、官能の力を思った。何より楽曲のすべてに喜びが溢れている。それぞれの奏者が持ったすべてを賭けてインタープレイを繰り広げんとするジャズの奥儀を、なんと自然に、何と大らかに為していることか。これぞ無為自然というものか、それゆえに歴史的名盤として後世の僕たちの目にも触れることのできるところに存在しているのだと思う。

名曲”Moanin’”には、2つのバージョンが収められているが、緊張感と集中力は最初の方が高いように思う。また、人口に膾炙した”Are You Real”は、ブレイキーのドラミングはもとより、リー・モーガンのトランペット・プレイが聴きもので、すべてのフレーズから軽やかに、そして高らかな音楽が聴こえてくる。人生を謳歌する、幸福感に満ちる音楽の力強さ。

・Art Blakey and the Jazz Messengers:Moanin’ (1958)

Personnel
Lee Morgan (trumpet)
Benny Golson (tenor sax)
Bobby Timmons (piano)
Jymie Merritt (bass)
Art Blakey (drums)

白眉はやっぱりブレイキーの奔放なドラミングをフィーチャーしたベニー・ゴルソン作”The Drum Thunder (Miniature) Suite”だろうか。わずか7分15秒の中に個々のプレイヤーの技術の確かさ、同時に揺るぎない音楽的センスの奔流が見えてくる。
ジャン・ジャック・ルソーは次のように言ったという。

ハーモニーのないリズムの方が、リズムのないハーモニーよりも魂をずっと強く刺激する。

ジャズ・メッセンジャーズの演奏にはいつも魂を動かされるが、それは際立ったリズム・センスに依るところが大きいのだと思う。

ちなみに、アート・ブレイキーには、初来日のとき、ファンからツーショットでの写真撮影をせがまれ、当時人種差別の激しかった世界で、日本人だけがそういう意識なく、自分たちを人として認識してくれたことへの驚きと感謝の思いを抱き、以降、親日家になったという興味深いエピソードがある。おかげで日本人はモダン・ジャズのルーツたる(?)ブレイキーの名演奏を生で幾度も聴くことができた。
外見を越えた、心を感じ取ろうとする日本人の深層にある慈しみの心を思わせる実に善い話だ。

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