“We Want Miles”を聴いて思ふ

we_want_milesビッグ・ファイヴ、いわゆる特性5因子論をひもとくと面白い。中で、「開放性”Openness”」という、一般社会では耳慣れない、ある意味生活する上では不要な性質項目がある。いわゆる芸術家、そう、天才といわれる人たちが持つ特殊な性質である。世間と隔絶した、常人には推し量ることのできない「超」能力とでも表現するのか・・・。
例えば、「開放性」の異常に長けた人の特長は、言語感覚においても他を圧倒する。いくつもの、いかにも関連性のない単語を並べられて違和感を持たないとか、それこそ「風が吹けば桶屋が儲かる」的なストーリーを一気に繋げることのできるイマジネーションをもつとか・・・。僕などはこういう人を長らく本当に羨ましいと思い、憧れてきた口。

しかし、これらの人々は日常生活にはまったく適応できない。様々な文献に見る天才たちの日常の破天荒な振る舞いは、僕たち凡人からは決して信じられないこと多々。

音楽の世界についても同じだろう。古典音楽の作曲家たちもその意味では似たり寄ったりだったのかも。ましてや20世紀のジャズ音楽やロック音楽に至ってはそんな人間ばかり。不安定な危うさの中にこそ真の音楽が生み出されるのだとばかりに・・・。

1975年から80年まで完全引退したマイルスと、その後に復活したマイルスの、その頃の状況を綴る自伝を読むのは実に面白い。やっぱり気が狂っているとしか思えないシーンが続出。

それでも時々メイドを雇ったが、オレの後始末は大変な仕事で、誰も長続きしなかった。服がそこらじゅうに散乱して、汚れた食器が流しに積み上げられていた。新聞や雑誌が床に散らばって、ビール瓶やゴミもそこらじゅうという具合で、家の中はめちゃくちゃだった。
P209

オレはほとんど外に出ないで、世捨人みたいになった。外界とのつながりは、つけっ放しのテレビと新聞と雑誌だけだった。
P210

1978年に扶養義務不履行で刑務所に入れられた。今度はマーグリエットに訴えられたんだ。エリンに何の金もやらなかったからだ。
P213

「マイルス・デイビス自叙伝Ⅱ」からの抜粋だが、こんなのは序の口だ。麻薬や女や・・・、堕落生活の詳細が克明に語られる。
そんな中、マイルスは復活を遂げるのだ。

クスリのすべてと手を切るのは地獄だったが、最終的にはやめることができた。真剣に取り組んだことはやり抜く、強い意志は持っていたからだ。

オレは自分自身を、それに自分の音楽を作り上げる能力を信じていた。何かができないと思ったことはないが、特に音楽では絶対そうだった。
P219

1981年のカムバック・ツアーでレコーディングされた”We Want Miles”。5年のブランクがあったとは思えない出来。

Miles Davis:We Want Miles

Personnel
Miles Davis (trumpet)
Bill Evans (soprano saxophone)
Mike Stern (electric guitar)
Marcus Miller (bass guitar)
Al Foster (drums)
Mino Cinelu (percussion)

卒中の発作で一時指が動かなくなったマイルスが奇蹟の復活を遂げる。

1983年の秋には、ヨーロッパに行った。人々はオレを見て大喜びで、音楽も最高にウケたから、なんともすばらしいツアーになった。特にポーランドのワルシャワでのコンサートは忘れられない。

演奏が終わると、人々は立ち上がって喝采し、オレが100歳までも長生きするようにと、繰り返し叫んでくれた。なんともすばらしくて、たとえようない経験だった。オレの耳には今でも、「ウィ・ウォント・マイルス!」「ウィ・ウォント・マイルス!」というみんなの叫び声が聞こえている。
P248-249

最高にクールな復活実況録音!!他人の目などまったく気にしない、びくともしないマイルス・デイヴィスの本領発揮。マーカス・ミラーのベースとアル・フォスターのドラムスが肝。黄色いジャケットがやけにかっこいい。

 


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