ヴァルヒャ J.S.バッハ トリオ・ソナタ第2番BWV526(1950録音)ほか

ヘルムート・ヴァルヒャのバッハのオルガン全集は新旧2種ある。
録音技術の進化と共に、新たなステレオ録音が必要だという信念から再録されたのだろうが、結論からいうと旧い方が音楽的にも録音の面でも豊穣で心に刺さる。
バッハの音楽は深遠だ。峻厳であり、時に魂の慟哭を感じさせ、時に天国的な安寧を喚起する。そのことが、より明確に表現されるのが壮年期、1940年代から50年代にかけてのモノラル録音だ。

ヨハン・セバスティアン・バッハ:トリオ・ソナタ
・第1番変ホ長調BWV525(1947録音)
・第2番ハ短調BWV526(1950録音)
・第3番ニ短調BWV527(1950&52録音)
・第4番ホ短調BWV528(1950録音
・第5番ハ長調BWV529(1952録音)
・第6番ト長調BWV530(1947録音)
ヘルムート・ヴァルヒャ(オルガン)

リューベックは聖ヤコビ教会(第1番&第6番)、そしてカッペルは聖ペテロ・パウロ教会(第2番~第5番)での録音。

愛息ヴィルヘルム・フリーデマンの教育用に書かれたと言われる6つのトリオ・ソナタ(1730年頃作曲)だが、技術面の高度さに増して、3声が同等に共鳴する音楽的な響きが実に美しい(ちなみに話は変わるが、日本は享保年間で、江戸幕府第8代将軍徳川吉宗が、改革の大鉈を振るっていた時期だ。倹約と増税を軸にした財政再建策は一長一短だったそうだが、今も昔もその動きを発動し、概ね成功裡に終わらせたという点で評価に価する。歴史を縦割りでなく横の連携をとって眺めてみると、興味深い発見多々)。

世界は変化する。
300年近くを経て、燦然と輝く音楽遺産。バッハの音楽は永遠不滅なり。

とにかくぼくは、きのうからここに寝ていて、いったい自分はいままでいつもどんな気持でいたか、そして全体に対して、つまり人生に対して、人生の要求に対してどんなふうであったかを考えてみたんだ。ぼくの性質には、いつもある種の真面目さと、逞しくて騒々しいものをきらう気持があった—先日もそのことを話し合ったが、ぼくが悲しく敬虔なことに対する興味から、ときには僧侶になろうと思ったりするということね。—たとえば棺にかけるあの黒い布とか、銀の十字架をのせるとか、R・I・P・・・つまり『安らけく眠れ(Requiescat in pace)』だね・・・あれはどんな言葉よりも美しく、『万歳』などという、どちらかといえば騒々しい言葉よりもはるかにぼくは好ましいんだ。そういうことは、やはりぼく自身がきずのあるからだで、初めから病気と友達だからなのではあるまいか、と思うんだ・・・それがこんどの、この機会にわかったというわけさ。しかし、もしそういうことだったとしたら、ぼくがここの上へやってきて、診察を受けたのは、結局幸福だったといえはしないかしら。だから君は気に病むことなんか少しもないんだ。君も聞いたろう、ぼくがもう少し下界の生活を続けていたら、おそらくぼくの肺葉は全部文句なしにだめになってしまったかもしれないんだから」
トーマス・マン/高橋義孝訳「魔の山」(上巻)(新潮文庫)P387-388

なんだかバッハが恋しくなる。

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