
1923年9月1日正午前、関東大震災。
その日からちょうど1世紀が経過する。教科書でしかその史実を知らなかった僕にはこの天災は実感のない、架空の物語のようなものだった。
1953年9月1日、ジャック・ティボーは不慮の航空機事故で命を落とす。
そしてまた、1957年の同日、デニス・ブレインが交通事故によって36年の短い生涯を閉じた。
僕が生まれる前の、知る人ぞ知る天才たちの突然の逝去は、その音楽を愛する人たちにとって衝撃だったであろう。
デニス・ブレインを聴いた。ボックス・セットの2枚目。
明朗で力のあるホルンの妙なる調べ。ブレインの演奏だと一聴わかる円やかさ。
戦中から戦後にかけての最盛期のブレインのホルンの美しさ。
珍しいベートーヴェンのホルン・ソナタに釘付け。わずか1分15秒で駆け抜けるいかにもベートーヴェンらしい葬送気分の第2楽章ポコ・アダージョ・クワジ・レントからモーツァルトのような愉悦を喚起する終楽章アレグロ・モデラートの解放の妙。
一層素晴らしいのは朗々たる明るい調べが煌めくリヒャルト・シュトラウスの協奏曲!
いとも容易く音楽を奏でるブレインの脱力の、ほとんど楽器と一体となって操る技量に言葉がない。何と自然で、何と落ち着く音楽だろう。