ようやく庄司紗矢香に出逢った。
それも、ショスタコーヴィチの第1協奏曲という問題作を携えての登場で、とても20代後半という年齢とは思えない、風格の漂った大巨匠然とした演奏が僕の脳天を貫いた。
もちろん音楽そのものの力は大きい。それは、終演後の拍手喝采の中で指揮者のドミトリー・リスがスコアを開き、そこに写るショスタコーヴィチの肖像を高々と掲げて聴衆に訴えかけたそのことからも歴然としている。そう、今夜のコンサートは歴史的な1ページになり得ると言っても言い過ぎでない。5000人収容の大ホールが静寂に包まれ、そして演奏が終わった後の爆発的な歓声と嵐のような拍手がそのことを物語る。
それにしても、ホールが大き過ぎる。ただし、舞台の両側に大スクリーンが設置され、演奏者の演奏中の表情が具に見れたことはかえって良かった。興味深いのは、第3楽章パッサカリアでの例の幽玄かつ衝撃的なカデンツァ(研ぎ澄まされた鋼のような響き!)の終わった直後のヴァイオリニストのムッとしたような(僕にはそう見えた)表情。それは演奏に対する不満でないことは明らか。この厳しい祈りの音楽を完全に弾き終えたという安心からああいう無表情が出たのか。そして、アタッカで第4楽章ブルレスケになだれ込むが、最後の楽章の歓喜・・・。
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2012
「熱狂の日」音楽祭2012”Le Sacre Russe”
2012年5月4日(金)19:45~20:30 東京国際フォーラム ホールA プーシキン
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調作品77
庄司紗矢香(ヴァイオリン)
ドミトリー・リス指揮ウラル・フィルハーモニー管弦楽団
客席は2階後方半分を除いてほぼ満席というのだから庄司人気は流石。正直、ショスタコーヴィチにこんなにも人が集まるとは信じられなかった。
演奏は予定通りスタートしたが、第1楽章ノクターンからもうショスタコーヴィチの世界。その名の通り深遠な夜を想う音楽であるが、これほど現世的な響きが他にあろうか。ここには神はいない。あるのはただ漆黒の夜の気配。チェレスタとハープが聖なる世界に我々を呼び込もうとするが、銅鑼によってあっという間にそれは拒絶される。やはりあくまで人間世界の出来事なのである。スケルツォはお祭騒ぎ。庄司のヴァイオリンも冴えに冴える。我々は微動だにせず息を凝らして演奏に集中するが、頭の中はもはや狂喜乱舞。
そして件のパッサカリアに差し掛かった時には踊り疲れからか「金縛り」状態に陥ってしまう。
いやはや凄かった。素晴らしかった。ショスタコーヴィチの音楽は実演で聴かなければ決してわかり得ないということを本日も実感。願わくば、せいぜい2000席程度のもう少し音響の良いホールでの再演を望みたい(今度は第2番というのでも良い)。それにしても、今宵の感動を言葉で表現することの難しさよ。夜もだいぶ更けたのでこの辺で筆を置くことにする・・・。
そういえば、彼の他のいくつかの作品と同様このコンチェルトは作曲後しばらく発表が控えられた。スターリンが逝き、オイストラフとムラヴィンスキーによって初演されたときの舞台とはどんなだったのだろう?
本日はこの後古典四重奏団によるショスタコーヴィチのカルテットを聴いたが、これについては明日また書くことにする。良かった。が、昨日同様会議室という会場が真に残念だった。
おはようございます。
庄司紗矢香の実演、そんなに素晴らしかったですか!! いいですねぇ。
>ショスタコーヴィチの音楽は実演で聴かなければ決してわかり得ないということを本日も実感。
ほんとにそうですよね。そして、ショスタコーヴィチ以外でも、クラシック作品の大半は、実際にはそうなのかもしれません。
昨日、予定通りチャイコフスキー:交響曲第2番の実演
http://www.ic.nanzan-u.ac.jp/GAKUSEI/kagai/club/oche/concert.html
を生まれて初めて聴けたのですが、休憩の時、近くの若いご奥様方同士の会話を耳にしました。
「チャイコフスキーの2番はiPodに入れてイヤフォンなんかで前からよく聴いていて、繰り返しがやたら多い曲だなあとか、それなりに理解したつもりでいたけれど、今日コンサートで聴けて、こういう曲なんだ!! と初めてわかった。やっぱり演奏会で聴かなきゃ駄目ね」
「ほんとね! あの楽器がああゆう活躍してたんだとかも、今日初めて知った!」
奥様方、御意にございまする!!と、思わず叫びそうになりました(爆)。
ところで、昨日配られたその演奏会のプログラムで、客演指揮の稲垣宏樹氏が「南山オケの印象・改善点を教えてください」という問いへの答えの中で紹介していた、〈ウイントン・マルサリスの練習12則〉(Winton’s Way To Practice)は、当たり前のことばかりですが、岡本さんのお仕事や合気道の練習などのご参考になるかもしれないと思ったので、ご紹介しておきます。
1.Seek Private Instruction
(個人的な助言を求めよ)
2.Make a Schedule(予定表を作る)
3.Set Goals(目標を定める)
4.Concentrate(集中する)
5.Relax Practice Slowly
(あせらずリラックスしてゆっくり練習する)
6.Practice Hard Parts Longer
(苦手な難しい部分の練習に時間をかける)
7.Play with Expression
(全ての音に感情を込めて歌わせて真剣にシラけず気持ちを込めて演奏する)
8.Learn from Your Mistakes
(失敗から学ぶ。しかし失敗をいちいち気に病むな)
9.Don’t Show Off
(ひけらかさない。うけを狙った演奏は底が浅い)
10.Think for Yourself(あなた自身で工夫すること)
11.Be Optimistic(楽観的になる)
12.Look for Connections(異分野との共通点に注目)
>雅之様
おはようございます。
いやぁ、素晴らしかったですね。余裕と貫禄のヴァイオリンでした。
ところで、チャイコフスキーの2番の件、奥様方の会話を読ませていただくと、聴衆層もマニアックでなかなかのものですね。そんな立ち話をする奥様連中は見たことありません(笑)。思わず声をかけそうになることよくわかります。
>〈ウイントン・マルサリスの練習12則〉
これは貴重です。使えます。やっぱり中心線をぶらさず、相手との接点を感じ取ることですね。
ありがとうございます。
[…] 庄司紗矢香のショスタコーヴィチを聴いた […]
こんばんは。
庄司のショスタコーヴィチ、私も大野/東フィルのコンビで数年前に聴きましたが当時から実に素晴らしかったのを覚えています。
後半の火の鳥が霞んで見えましたね。
後、五嶋みどりのショスタコーヴィチも鬼神の如く演奏でした。
>ふみ君
こんばんは。
そうそう、数年前のも随分評判高かったようね。
本当に凄かったです、今回も。
>五嶋みどりのショスタコーヴィチも鬼神の如く演奏でした。
なるほど!想像するだけで鳥肌もの・・・。
[…] ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2012以来の東京国際フォーラム・ホールA。 5000人収容のホールは満員御礼とはいえないまでも、老若男女が集合しての一大ページェントと化した。それほどにこの映画のファンは多いということだ。 それほどにこの伝説のサーガは人々を魅了する。人間の内側に潜む善と悪とを上手に表現し、しかも最後は愛による調和というお決まりの流れ。もはやこれは「魔笛」の現代版と言っても過言でない。 […]