クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィル シューベルト 交響曲第9番「ザ・グレート」ほか(1957.10.27Live)

名作だけれど、(個人的には)なかなか名演奏に出会わないこの曲に見事に風穴を開けてくれたのが(ライヴ録音だけれど)クナッパーツブッシュだった。

しばしば人を食ったような態度(演奏)を示すのがこの人。
四半世紀ほど前、初めて聴いたとき、聴衆の拍手が鳴りやまないうちに我関せずと棒を振り下ろし音楽を始めたものの、宙から紡ぎ出されたその音楽のあまりの素晴らしさに僕は感激した。おそらくほぼリハーサルもなしに成し遂げられたコンサートだったのだろうと思う。しかし、それゆえの生々しさ、凄まじさ、臨場感が旧い録音を超えて感じられるのだから本物だ(その日、その場にいた聴衆は息を飲んでこの奇蹟を体験したことだろう)。

速めのテンポで颯爽と進められる第1楽章アンダンテ—アレグロ・マ・ノン・トロッポは、相変わらずの金管群の咆哮がいかにもクナッパーツブッシュらしく、その上で前へ前へと推進力抜群の音楽が聴く者の度肝を抜く(この楽章を耳にするだけでシューベルトの偉大さとクナッパーツブッシュの天才が手に取るようにわかる)。リタルダンド気味の巨大な終結が心に響く。

そして、第2楽章アンダンテ・コン・モートの重くて軽やかな風趣。主題を吹くオーボエの雅さ、また、フォルテで弾ける怒号のような一撃に巨人(悪魔?)の高笑いを思う。

・フランツ・シュミット:軽騎兵の歌による変奏曲
・シューベルト:交響曲第9番ハ長調D944「ザ・グレート」
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1957.10.27Live)

久しぶりに聴いた。
一期一会のつもりで真剣に聴いた。やっぱり感動した。
もちろん実演で聴くに越したことはないが(66年前のウィーンは楽友協会大ホール)、録音でも十分にその天才が体験できるのはすごいことだ。ヴァイオリン奏者としてこのコンサートに出演していたオットー・シュトラッサーは次のように書いている。

シューベルトの「大ハ長調」交響曲をクナッパーツブッシュが指揮したのは、1949年と1957年のフィルハーモニー・コンサートにおいてだけだった。当ディスクの演奏では、第2、第4楽章でテンポの揺れが目立つが、これも指揮者クナッパーツブッシュの特性をよく示した例といえよう。私は、こうした演奏解釈を批判することは、あまり意味がないと思う。クナッパーツブッシュのような強烈な個性の持ち主には、このような習慣からの逸脱も許されるであろうし、むしろ聴き手は、(録音を聴くという間接的な体験ながらも)彼に再び会えることを、心から喜んでくれるものと信じている。
(鳴海史生訳)
POCG-2627ライナーノーツ

普段ならこのあたりでもはや飽き飽きしてくる第3楽章スケルツォに入っても、衰えることのない集中力と音楽の有機的な響きに言葉がない。さらに、終楽章アレグロ・ヴィヴァーチェの冒頭の恐るべき金管の鳴りに感化され、その後の遅いテンポで繰り広げられる音楽に魂までもが引きずり込まれるのだから堪らない(白眉!!)。

クナッパーツブッシュの実演に触れることが叶わなかった僕たちにとってこのシューベルトは、ワーグナーやブルックナーの名演奏に優るとも劣らぬ歴史的逸品だ。録音を聴くという間接体験ながらまさに千載一遇。圧倒的。

過去記事(2012年10月8日)

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