ブッシュ弦楽四重奏団 シューベルト 弦楽四重奏曲第15番(1938.11録音)ほか

旧い録音というのは、ほぼ一発録りの可能性が高く、確かに演奏上の疵などは散見される場合が多いものの集中力の高さや演奏者のセンスをはかるという点で、これほど相応しい音源はないように思う。何しろ何十年もの間、語り継がれ、聴き継がれてきた録音ゆえ、確かに普遍性がある。それは作品そのものの優秀さもさることながら、やはり演奏者の功績が大きい。

ブッシュ弦楽四重奏団が素敵だ。

絃楽四重奏曲では「死と乙女」の四重奏曲と言われる「絃楽四重奏曲ニ短調」にレコードは集中されている。第2楽章に歌曲「死と乙女」が採り入れられ、美しいが此上もなく物悲しい変奏曲の主題となって居るためで、絃楽四重奏曲ではベートーヴェンを除けば、これほど美しくこれほど人を打つ曲を作った人は無い。レコードは甚だ古いが依然としてコロムビアのカペエ四重奏団の繊細な気品の高いのを第一とし、ビクターのブッシュ四重奏団の重厚な良さがそれに次ぐだろう。
あらえびす「クラシック名盤楽聖物語」(河出書房新社)P123

あらえびすの的を射た評に、当時の愛好家は膝を打ったのではなかろうか。
否、それこそ今と違ってあの時代はもはやレコードの種類も豊富ではなかったゆえ、カペーやブッシュを聴いて、誰もが悦に浸っていたのかもしれない。

シューベルト:
・弦楽四重奏曲第14番ニ短調D810「死と乙女」(1824)(1936.10.16録音)
・弦楽四重奏曲第15番ト長調D887(1826)(1938.11.22&30録音)
ブッシュ弦楽四重奏団
アドルフ・ブッシュ(第1ヴァイオリン)
ゲスタ・アンドレアッソン(第2ヴァイオリン)
カール・ドクトール(ヴィオラ)
ヘルマン・ブッシュ(チェロ)

「死と乙女」には名盤は多い。さすがに今となっては技術的に凌駕する演奏は数多ある。
何年か前に実演で聴いたハーゲン・クァルテットのそれも涙が出るほど素晴らしい演奏だったが、古の、それこそ作曲者の魂と同期するような、聴いていて震えが止まらなくなるほどの感動を喚起するものはそれほどしょっちゅう出会えるものではない。ましてやシューベルトが存命当時の味わい(果たしてそういうものがあるのかどうかわからないが、想像するに)と極めて相似の解釈がブッシュ弦楽四重奏団の演奏には感じられるのである(あくまで個人的に)。

そして、一層孤独で美しいのが(わずか10日間で書かれた)ト長調の方(同じく2017年に聴いたハーゲン・クァルテットの実演は空前絶後だった)。
第1楽章アレグロ・モルト・モデラートの哲学的独創的音響にシューベルトの天才を思う(もはやこの時点でシューベルトは完成していた?)。続く第2楽章アンダンテ・ウン・ポコ・モッソは深遠なる歌に溢れ、アドルフ・ブッシュの繊細なヴァイオリンとヘルマン・ブッシュの重厚なチェロが交互に旋律を奏するシーンの神々しさ、あるいは全曲を通して頻出するトレモロの慟哭に感動する。

第3楽章スケルツォは喜びだ。
終楽章アレグロ・アッサイの光にシューベルトの輝く命を思う。

人気ブログランキング


1 COMMENT

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む