ウィントン・マルサリス サロネン指揮フィルハーモニア管 トマジ トランペット協奏曲(1985.6録音)ほか

9.11の半年前、僕はニューヨークにいた。
大雪降り積もるニューヨークは厳しい寒さだった。
そんな中、ブランフォード・マルサリス・クインテットが出演するというので、ヴィレッジ・ヴァンガードに早速予約を入れた。長蛇の列を尻目に、僕たちは狭いジャズ・クラブに席を確保し、激しい、そしてメロウなギグに酔い痴れた。
あのときは、半年後にそんな事件が起こるとは想像もしていなかった。

日々進化した(退化?)マイルスの「デコイ」を久しぶりに聴いた。
そこではブランフォードがソプラノ・サックスを吹いていた。
40年前の演奏は、古びない。

・Miles Davis:Decoy (1984)

Personnel
Miles Davis (trumpet, synthesizers, arrangements)
Robert Irving III (synthesizers, electric drum programming, arrangements, synth bass)
John Scofield (guitars)
Darryl “The Munch” Jones (electric bass)
Al Foster (drums)
Mino Cinelu (percussion)
Branford Marsalis (soprano saxophone)
Bill Evans (soprano saxophone)
Gil Evans (arrangements)

オレは、直観的な人間だ。人々の目には止まらないことがわかる。人々が、何年も後になって重要と思ったり聞き取れるようになることを、その時に感じることができる。そして、彼らが理解する頃には、もうオレは別の所に行っていて、そんなことは忘れてしまっている。重要じゃない物事を無視する能力を持っているおかげで、時流に遅れず物事をうまく処理できる。自分が重要と思わない限り、他人がどう思おうとオレには関係ない。それはあくまで他人の意見にすぎない。オレには自分自身の考え方があるし、自分や自分のしていることに関しては、誰よりも自分が感じ取ることのほうを大事にする。
マイルス・デイビス、クインシー・トループ著/中山康樹訳「マイルス・デイビス自叙伝Ⅱ」(宝島社文庫)P345

マイルスのこの言葉にすべてが詰まっている。
そういうマイルスに対して周辺は何を見ていたか?

気がつけば「引退」から10年が経過していました。あの引退から10年後、還暦を目前にしてポップスターをも超え、ほとんどアイドルめいた自意識で、アルバムの売り上げ目標をジャズ・チャートではなくメイン・チャートのトップに設定し、具体的なプロモーションにもただならぬ情熱を燃やすマイルス像を、誰が想像したでしょうか。
菊地成孔+大谷能生「M/D下―マイルス・デューイ・デイヴィスⅢ世研究」(河出文庫)P377

大衆の想像をはるかに凌駕する帝王マイルス・デイヴィスの天才。
帝王はこの後、ブランフォードを正式メンバーとして採用しようと考えていたが、実現しなかった。

ところで、ブランフォードの弟であるウィントン・マルサリスはその頃、クラシック界に衝撃的なデビューを果たしていた。
それは、誰かしらのトランペット協奏曲だった。
しかし、確かあまりに急激に売れ、天狗になる彼がいて、いつのまにか表舞台から姿を消してしばらく後、干されたという噂も聞いていた。
しばらく僕はウィントン・マルサリスを聴いていなかった。

ウィントンが高松宮殿下記念第34回世界文化賞を受賞したそうだ。
ウィントン・マルサリスはジャズ音楽を「米国の良心を示す音楽」として位置づけているようだ。奴隷の子孫として生まれ育った彼にとって音楽は裏切らない良心そのものだったのだろう。

・アンリ・トマジ:トランペットと管弦楽のための協奏曲(1949)
・アンドレ・ジョリヴェ:トランペット協奏曲第2番(1954)
・アンドレ・ジョリヴェ:トランペット、弦楽合奏とピアノのための小協奏曲(1948)
ウィントン・マルサリス(トランペット)
クレイグ・シェパード(ピアノ)
エサ=ペッカ・サロネン指揮フィルハーモニア管弦楽団(1985.6.9, 11&12録音)

フランスはパリ周辺こそに革新の種があることをマイルスは仄めかしていたが、トマジの協奏曲もジョリヴェのそれもいかにもウィントンの手の内にあり、実に明朗な音楽たちが心を動かす。個人的にはジョリヴェの小協奏曲が好み。

過去記事(2015年12月30日)

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