ポール・シュトラウス&リエージュ管のフランク「プシュケ」を聴いて思ふ

franck_psyche_paul_strauss先頃、「原子心母の危機」をリリースしたモルゴーア・クァルテットの荒井英治さんが語る言葉に膝を打つ。

スマホの檻の中に閉じこもり、お膳立てされた「平和」を享受する現代の人々に、今という時代のきな臭さに気付いてもらいたい。世界に目を向け、いまこの時代に生まれた意味をひとりひとりに考えてもらうためにこそ音楽があるのだと、僕は信じます。
~2014年8月18日、朝日新聞夕刊

同感である。彼らはいわゆるプログレッシブ・ロックをその誘発剤に人々の覚醒を試みるが、ジャンルを問わず古くより遺されしものにこそ荒井さんの言わんとするヒント、源泉があるように僕は思う。まさに「温故知新」。

古来、人は「慈愛」を求め続けてきた。すべてが「我」や「思い込み」という「枠」との闘いであり、それは、永遠に手にできないものだと言い換えることも可能だ。
そして人は、達成し得ないものを主題に―それはすなわち「愛」―芸術を拵えてきた。古今東西あらゆる作曲家が、いかにそれを投影しようと努力してきたことか・・・。

音楽の源は宗教(的なもの)だ。そして、宗教が掲示するものは「愛」であるのに、その宗教が原因となって古より人々は争ってきた。人類の抱える大いなる矛盾がここにある。もしも人が余計なこだわりを捨て去り、すべてを委ねることができたなら・・・。それこそ真の「思いやり」というものが各々の内側から湧き出るものならば・・・。

残暑厳しい晩夏の昼下がりの午後、まどろみながらセザール・フランクの交響詩「プシュケ」を思い浮かべる。あの半覚醒の「気怠さ」こそワーグナー的世界を髣髴とさせるもので(ワーグナーよりもっと開放的だ)、晩年の作曲者が「純愛の勝利」を謳う知る人ぞ知る傑作なのである。

フランク:
・交響詩「プシュケ」(1974.9.16-19録音)
・交響的変奏曲嬰へ短調(1974.9.20&12.7, 9, 10&12録音)
アルド・チッコリーニ(ピアノ)
ベルギー放送局合唱団
ポール・シュトラウス指揮リエージュ管弦楽団

第2部「エロスの花園」と「プシュケとエロス」における開かれた官能の極み。そして第3部「罰」後半の「プシュケの悩みと嘆き」における閉じられた苦悩との対比こそフランクの創造の真骨頂。
「終幕」合唱の「エロスは赦せり」の静かな美しさに恍惚・・・。その上で、ほとんど「トリスタン」と「マイスタージンガー」を折衷したような最後の管弦楽によるクライマックスでやっぱり「愛」が勝利するというお決まりの大団円。それはそれで納得だ。

一方の、チッコリーニを独奏者に据えた「交響的変奏曲」の一切の感情やイデオロギーを抑えたような純音楽的アプローチの作品にこそ僕は「慈愛」を感じる。
何という優しい音楽。ピアノと管弦楽が寄り添い、掛け合いながら縦横に変奏してゆく様に「生きる喜び」が奔流する。

音楽はやっぱり人々を救う大きな力を持っているということだ。

 

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5 COMMENTS

畑山千恵子

6月18日、チッコリーニのリサイタルへ行ってきました。杖を突きながらステージに出てきたとはいえ、ピアノを前にすると、素晴しい音楽が流れてきました。今回のプログラムでは、ブラームス、4つのバラード、Op.10が味わい深い演奏でしたね。

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タカオカタクヤ

このディスク、フランスVoix・Son・MatreのLP(2C-069-12858)で、しばしば聴き返しております。どこかけだるい雰囲気に軽やかさや、瑞々しい叙情感など、 さまざまな顔を持つ、魅惑的な作品ですね。この、P・シュトラウスと言うお方、他に殆ど現役盤にお目にかかれない指揮者ですが、これほど巧みに澄みきった響きを引き出すとは、ただ者ではないですね。

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岡本 浩和

>タカオカタクヤ様
アナログ盤をお持ちとは羨ましい限りです。
こういう録音はやっぱりアナログが良い音を醸すのだろうと想像します。
それにしてもおっしゃるようにポール・シュトラウスは現役盤ではほとんど名前を聞かないですね。
僕もただ者ではないと思います。

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タカオカタクヤ

御丁寧なコメント、畏れ入ります。LP用プレーヤーと申しましても、自分の懐具合と相談して(笑)、デノンDP500-Mという機種で、再生しております。ご理解いただけます通り、アナログ・プレーヤーは、いかに盤を丁寧に取り扱い致しても、プレーヤーのカートリッジ及びアームが良くなかったら、みるみる盤が劣化しますので、『まぁ、この辺りの型番なら、あまり心配不要であろう‥。』と、購入した次第で、ございます。それでは‥。

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