クララ・ハスキルのシューベルトを聴いた。
ザルツブルク音楽祭での、ライヴならではの疵を持つ、しかし、生命力に溢れる、枯淡の実演には敵わないまでも、いかにも彼女らしい味わいがそこにもあった。
フランツ・シューベルト最晩年の、いつ終わるとも知らぬ、果てしなき旋律の宝庫は、透明感の塊のような「白鳥の歌」然としていて、ある意味手強い音楽だけれど、美しさにかけては人類の至宝ともいえる逸品だ。
ハスキルのピアノは訥々と歌う。
ヴァルター・ゲオルギーはこのソナタをして次のように語っているそうだ。
シューベルトのピアノ作品中、王冠のきらめいているのは、何よりも“変ロ長調ソナタ”であり、ベートーヴェン以後に書かれた最も美しいソナタである。
(Walter Georgie, Klaviermusik, 1976, Atlantis, p.281)
~「作曲家別 名曲解説ライブラリー17 シューベルト」(音楽之友社)P181
シューベルトの孤高の境地を示す最高の音楽を、ハスキルは悲しく、自由自在に奏でる。
奇を衒わない、純粋無垢な、それでいて重い音楽を、これほど縦横に語れるピアニストが他にあるのかどうか。ただし、6年後に奏でられたライヴの方が素晴らしいと僕は思う。
ベートーヴェンの「テンペスト」も素晴らしい。一層素晴らしいのは第18番変ホ長調!
※過去記事(2017年8月15日)
※過去記事(2008年11月7日)