サロネン指揮フィルハーモニア管 ストラヴィンスキー バレエ音楽「ペトルーシュカ」(1946/47年版)(1991.10.16録音)ほか

「ペトルーシュカ」は大成功を収め、ロシア・バレエの栄光に貢献した。そしてディアギレフ・バレエ団が終末を迎えるまで、そのレパートリーに残った。3人の主人公、カルサーヴィナ、ニジンスキー、オルロフは、これ以上は望めない最高の演技を見せた。観客は3人の演技に熱狂した。劇的な緊張は場面を追うにつれて高まっていった。ニジンスキーはまたもや死んで終わるのだが、その死に様は尋常ではない。どう言ったらわかってもらえるか考えもつかない。バレエの終わりには、ムーア人に殺されて死んだはずのペトルーシュカが、再び見せ物小屋の屋根に現れる。ペトルーシュカは不死なのだ。これを見た人形遣いは茫然自失。ペトルーシュカ一人が舞台に残る。降る雪の中、不吉な音楽が消えていく中、ゆっくりと幕が下りる。
セルゲイ・グリゴリエフ著/薄井憲二監訳/森瑠依子ほか訳「ディアギレフ・バレエ年代記1909-1929」(平凡社)P61

セルゲイ・ディアギレフの先見の明。
ストラヴィンスキーの天才を予言した彼の未来を見据える審美眼の確かさ。

サロネンの「ペトルーシュカ」を聴いた。
これはもはやバレエ音楽ではなく、また描写音楽でもない。完全なる絶対音楽として機能するべき名演奏だと僕は思う。
ピント一本の筋が通った透明な音。オーケストラのアンサンブルは見事で、ストラヴィンスキーの本質的な荒々しさの中に実に高尚な、高雅な音色が聴き取れ、色彩豊かな音楽が縦横に響く様は、文字通り音楽を聴く喜びを喚起する。
有名な「ロシアの踊り」に垣間見える中庸。知性溢れるサロネンの独壇場。
何よりセンス満点の第4場「謝肉祭の市(夕景)」が聴きもの。

ストラヴィンスキー:
・バレエ音楽「ペトルーシュカ」(1946/47版)(1991.10.16録音)
・3場のバレエ音楽「オルフェウス」(1947)(1992.12.22録音)
エサ=ペッカ・サロネン指揮フィルハーモニア管弦楽団

一方の「オルフェウス」。
冒頭、オルフェウスの嘆きのシーンからして何とも切ない。まもなく現れる金管の荘重な旋律も死の影を十分に表現し得ていて、心に響く。白眉はやっぱり第2場なのだろうが、僕はオルフェウスの嘆きが再現されるアポテオーズ(大団円)に惹かれる。
ここはオルフェウスの霊を神々に祀るシーンであり、そこには当然祈りの念が付随するが、音楽の内側に秘められる何とも表現し難いカタルシスこそ、そしてぷつりと途切れる音楽が表すであろう諦念こそがサロネンの迫真なのだ。

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