The Rolling Stones “Sticky Fingers” (Deluxe Edition) (1971/2015)

僕は長い間、ローリング・ストーンズの優秀な聴き手ではなかった。
恥ずかしながら還暦になってようやく70年代ストーンズの価値が理解できてきたのではないかと思う。

レコーディングが始まったのは1969年3月22日、僕の5歳の誕生日だ。場所は、合衆国はアラバマ州シェフィールドのスタジオ。そして、リリースは(2年以上の歳月を経た)1971年4月23日。
ブライアン・ジョーンズが亡くなってから最初のアルバム“Sticky Fingers”、あの有名なジャケットは、アンディ・ウォーホールのデザインによる。情念が内へと沈潜し、エネルギーが外へと拡散するストーンズの傑作。

ナイアガラ・ミュージック・セミナーから「その3 ローリング・ストーンズの巻」。

話はストーンズからかなりそれて路傍の石になってしまったが、彼等の16年ちかい活躍から一番感じることは、《サウンドは変化していくものでアル》ということだ。ナニ、アタリマエだって? ソウ、その大通りのヘップバーン、暗くなるまで待ったって事実は変わらない。シカルニ、お立ち合い! 作る側からいうと、毎回足を変え中国を変えというのは、実はシンドイことなのよ。《サティスハクション》で代表されるワイルドでクリエイティブなサウンドを世に送り出していた彼等だったが、音的に独自な世界はLP『アフターマス』ぐらいまでだった、といってしまっては遠州森の石松ファンにはおこられるだろう、スミマセン。特にサージェント・ペパーズの〈風邪ひきゃクシャミする〉作品、「ゼア・サタニック・マジェスティック・ピロー」は当時評判悪かったヨー。
ところが70年代・ロックンロール不朽の名作「ホンキー・トンク・ウィメン」で不死鳥の如くよみがえったんだネ、コレガ。サティスファクションのユニークさには及ばなかったが、サザン・ロックの特徴があますところなく盛り込まれていたのが典型となり得たいの一番なのだ。では、どうしてイギリスのバンドである転石合唱団が、アメリカのサザン・ロックのバンドが作る曲よりもサザン・ロックらしく聞こえるのだろうか? それは、《長所は相手によって認められる》ものだからなのである。

「大瀧詠一 Writing & Talking」(白夜書房)P317

大瀧詠一の洒落っ気(茶目っ気?)たっぷりの、センス満点たるストーンズ俯瞰評。
ブライアン・ジョーンズ在籍時のストーンズからよりソリッドな、ストーンズらしいストーンズに成ったストーンズ最初のアルバムは、タン&リップのロゴとともに僕たちの前に姿を現わした。

名曲”Brown Sugar”から”Moonlight Mile”まで全10曲は、一切弛緩することのない、どこまでも集中力に満ちる。その上、Deluxe Editionには、ファン待望の、エリック・クラプトンがスライド・ギターを弾く別テイクがボーナス・ディスクの劈頭に収録されているのだから堪らない(この、ライブ感満載のテンションを持つバージョンは、何度聴いても感動的だ)。

・The Rolling Stones:Sticky Fingers (Deluxe Edition) (1971/2015)

Personnel
Mick Jagger (vocals, acoustic guitar, castanets, maracas, electric guitar)
Keith Richards (electric guitar, acoustic guitar, backing vocals)
Mick Taylor (electric guitar, acoustic guitar)
Bill Wyman (bass guitar, electric piano)
Charlie Watts (drums)

アコースティック・ヴァージョンの”Wild Horses”がまた泣かせる。
本編“Sway”の後半、インストゥルメンタルのうねりに興奮し、後半にインプロヴィゼーションを聴かせる長尺の”Can’t You Hear Me Knocking”に感涙。
大瀧詠一が書くように、手を変え品を変え作るのは実際大変なことなのに、ストーンズの音は間違いなく変化ではなく、昇華の域にあることがわかる。この曲だけでもはやストーンズの虜だ(アンニュイなブルース調の”You Gotta Move”がまたいかす)。

最後になりますが、高校も3年になるとまわりのみんなが急に勉強し出したように感じるものですが、その時弁慶少しはあわてた—のいい伝えもあります。自己のペースを守り、いい音楽をジックリ聞きましょう。定理や公式、年代や英単語よりも1枚のレコード、聴いたラジオ番組のほうが長く心に残るものなのデス。軽く考えずに大切にしてください。以上、音楽関係者組合からのCMでした。
~同上書P305

大瀧詠一の言葉はふざけた調子に聞こえるものの、その意味は重い。レコードとかラジオ番組とか、ネタはアナログで随分古いが、そこには真理があると僕は思う。


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