ショルティ指揮ウィーン・フィル ワーグナー 歌劇「タンホイザー」序曲(1961録音)

それゆえ、私の『タンホイザー』を伝統的なオペラから明確に区分する第二の点として挙げたいのは、この作品が下敷にしている演劇性ゆたかな台本である。この台本が本来の意味での文学作品として高い価値を持っているなどと主張するつもりは毛頭ないが、伝承世界の不思議な性格を基調としながらも演劇的展開の筋を一貫して通し、オペラ台本に求められる月並な条件などは構想を練る時にも書き下ろす時にも一顧だにしなかった、ということだけは強調しておいてもよいだろう。つまり私のねらいは、何よりもまず聴衆を演劇行為そのものに釘づけにして一瞬たりともその進行を見失わせることのないよう気を配る一方で、逆に音楽による装飾はさしあたりすべて演劇的行為を表現するための手段としか映らないようにするということであった。こうして台本の内容に関して譲歩しなかったからこそ、音楽の構成においても一切の妥協を拒否することができたわけで、両者が相俟ったところにこそまさしく私の「革新」の眼目があるのだが、それは、私の「未来音楽」が目指している方向はこんなところではないかと世間で勝手に誤解しているような、絶対音楽流のしたい放題では断じてない。
「未来音楽」(1860)
三光長治監修「ワーグナー著作集1 ドイツのオペラ」(第三文明社)P180

物語の素晴らしさをそのまま音楽として表現できたのは、リヒャルト・ワーグナーの天才によるものだ。台本と音楽との完璧な融合を目指し、それを成したのが歌劇「タンホイザー」だった。それは、そもそも序曲の完全さからも垣間見ることができる。

・ワーグナー:歌劇「タンホイザー」序曲
サー・ゲオルグ・ショルティ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1961録音)

歌劇中のすべての主要主題を駆使し、シーンを見事に映し出す完璧なる序曲。
若きショルティの棒は相変わらず劇的で、(ある意味)軽い(せせこましい)。
しかしながら、ここにはショルティの若き血潮が渦巻いていて、聴くごとに魂にまで響く力が漲る。

「タンホイザー」のラスト・シーン。

若い巡礼たちの合唱
万歳!恩寵の奇跡よ、万歳!
救済が世界に与えられた!
夜の聖なる時に
主は奇跡を通して告げられた。
司祭の持つ干からびた杖から
緑の新芽を芽生えさせた。
地獄の業火に焼かれる罪人も
これで救済されるでしょう!
奇跡を通して恵みを得た者に
至る所で伝えましょう!
あまねく高き所に神はおられる、
神の慈悲は真なり、と!
ハレルヤ!ハレルヤ!
ハレルヤ!

井形ちづる訳「ヴァーグナー オペラ・楽劇全作品対訳集1―《妖精》から《パルジファル》まで―」(水曜社)P217

世界の本質は慈悲と智慧。

コメントを残す

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む