ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2016 エマールのメシアン「鳥のカタログ~パート3」

la_folle_journee_2016535春いちばんのスズメ!1年が以前にもまして、若々しい希望に燃えてはじまろうとしている!ブルーバード、ウタスズメ、ワキアカツグミたちの弱々しい、銀鈴を鳴らすようなさえずりが、まだらに雪の消え残っている湿った野原を越えて聞こえてくる。冬の最後の雪片が、舞いおりながら触れあう音のように!こんなとき、歴史や、年代記や、伝承や、文字で示されたあらゆる啓示がいったいなんだというのだろうか?
H.D.ソロー著/飯田実訳「森の生活―ウォールデン(下)」(岩波文庫)P251-252

自然には敵うまい。
時よ、動け!お前は美しい。
止まることを知らぬ音楽の何と刺激的なこと。大地を揺るがす鼓動、そして高鳴る鳥たちの囀り。
時は流れ、春が蠢く。
冬眠から目覚めた生きものたちが、一斉に動き出す。
虹色に輝く音は、ある者を心地良い眠りに、そしてある者を劇的な運動に決然と導く。
完璧な準備のもと生み出された完全な設計図を、それこそ完全、すなわちありのままに再現した音楽を聴いた。小難しい解釈は抜きにして、60余年前に生み出されたアンビエント・ミュージックにただただ浸る。
さらに時が流れ、夏が弾ける。繰り返される神々の創造した四季の中で、僕たち人間は喜怒哀楽を、身をもって学ぶのだ。

ピエール=ローラン・エマールの奏するオリヴィエ・メシアン。
背筋が凍るほどの重みと爆発、そして言葉に表せぬ軽快さと静けさ。
宗教(カトリック)云々を抜きにして(抜きにはできないのだけれど)、鳥たちの大いなる祈りの声を聴いた。
この作品たちも、実演を聴かねばその真髄には決して触れ得ないだろう。

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2016「la nature ナチュール―自然と音楽」
自然へのオマージュ~世界的名手が奏でる鳥への讃歌
2016年5月5日(木・祝)11:45開演12:45終演
東京国際フォーラムホールC(モルダウ)
ピエール=ローラン・エマール(ピアノ)
・メシアン:鳥のカタログ~パート3~
―第3巻第6番「モリヒバリ」
―第3巻第5番「モリフクロウ」
―第4巻第7番「ヨーロッパヨシキリ」
※各楽曲演奏前にベルナール・フォールによる音源(鳥のカタログへのプレリュード)の再生。

冒頭、エマール自身が聴衆に向けて行ったこの作品の意義と意味の解説が実に尊い。
なるほど、刻一刻と流れる時間と空間を(すなわち自然を)、鳥たちの鳴き声とともに表現したメシアンの慧眼。そして、作品ごとに拍手をしないでくれというエマールの見事な狙い。呼吸の深いエマールの演奏が生命を養う。僕は微動だにせず、息を凝らして(瞑想の如く)傾聴した。

ベルナール・フォールの採取した鳥たちの囀りと同化する第6番「モリヒバリ」の神秘。
また、堂々たる左手(低音)の響きが覚醒を喚起する第5番「モリフクロウ」の衝撃。
そして、いつ終わるとも知れぬ無限の旋律と、浮沈する奔放なリズムに心奪われる第7番「ヨーロッパヨシキリ」の大胆さ(演奏時間は30分ほど!エマールのとる絶妙な「間(ま)」の加減が素晴らしい)。

だが私を一番新たにさせてくれたのは、考えてみると、鳥に目を付けたことだ。そのために、多くの者から笑われた。彼らにとっては、鳥というと「小鳥さん」だからね。鳥は単に小さいという理由で低級な動物と考えられている。まったく馬鹿げたことだ―それに、とても大きな鳥だっている―鳥に関心を持った時に気付いたのだが、人間が発明したことは多くなく、むしろ、多くのものは既に我々を取り巻く自然の中に存在している―ただ一人といえども、そのことに耳を傾けていなかった。
アルムート・レスラー著/吉田幸弘訳「メシアン―創造のクレド 信仰・希望・愛」(春秋社)P140

自然へ回帰せよと・・・。

 

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2 COMMENTS

雅之

相変わらず、よい体験されてますね!!

私は「日本百鳴鳥 202 HD ハイビジョン映像と鳴き声で愉しむ野鳥図鑑」という BDを昨年買いました。

http://www.amazon.co.jp/%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%88Blu-ray-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E7%99%BE%E9%B3%B4%E9%B3%A5-202-HD-%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%93%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E6%98%A0%E5%83%8F%E3%81%A8%E9%B3%B4%E3%81%8D%E5%A3%B0%E3%81%A7%E6%84%89%E3%81%97%E3%82%80%E9%87%8E%E9%B3%A5%E5%9B%B3%E9%91%91/dp/B00IRKHWHO/ref=sr_1_3?s=dvd&ie=UTF8&qid=1462449977&sr=1-3&keywords=%E9%B3%A5

山歩き時の楽しみだけでなく、自分にとってのメシアン理解の一助になるかもしれないと信じつつ(笑)。

返信する
岡本 浩和

>雅之様

また興味深い映像を!!
雅之さんの好奇心の幅の広さには本当に頭が下がります。
確かにメシアン理解には必須かもしれません。(笑)

ちなみに、今日のコンサートは行けなくなった知人から譲り受けて行ったのですが、素晴らしかったです。

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