涙の「パルジファル」

昨日の*AK* the piano duoのコンサートは一聴衆として冷静に現場を覗いてみて、率直に素晴らしかったと思う。特に、メイン・プログラムであるストラヴィンスキーの「春の祭典」は二人の呼吸がぴったりと合っていて、前半の少々苦しかった演奏を帳消しにするほどのエネルギーとパワーに漲った女性っぽい「男性的」な名演奏であったと賛辞を送りたい。
演奏についての微細な批評は他に譲るとして、こういう「原始的な音楽」が頻繁に演奏され、一般聴衆から受容されるようになるなら日本のクラシック音楽界も捨てたものじゃないなと感じさせるものであったことを付け加えておく。
面白いことに、同じ東京オペラシティ・リサイタルホールで、柳井修&森正Piano Duoによる同じく「春の祭典」をメイン・プログラムにしたコンサートが今日の午後(つまり翌日)からあったので、聴き比べの意味も含めて出かけた。
流石に男性のDuoだけあり、パワーは*AK*以上のものがあったことは否めないが、旋律の歌わせ方やリズム感、二人の呼吸など、そして何より作曲者の編曲版をベースに*AK*が独自にアレンジした版によっていたことを考慮に入れると、お世辞抜きに昨日のコンサートが間違いなく上をいくものであった。*AK* the piano duo天晴れ、である。
ともかくストラヴィンスキーが作曲した「春の祭典」という曲は2日連続で体感してみて刺激的奇跡的な楽曲であることをあらためて確信した。

ところで、気分よく、帰りがけに新宿のTower Recordsに寄ったらば、クナッパーツブッシュ最後の「パルジファル」(1964年Live)を店頭で発見し、どうにも我慢ならず購入してしまった。
帰宅し、早速CDトレイに乗っけたところなのだが、さすがに正規音源。モノラルとはいえ聴きごたえ十分で、かつ鑑賞に十分耐えうる音質のクナの「パルジファル」が鳴り響き、第1幕前奏曲から心が震えっぱなしでどうにもならない。とにかく呼吸が深く、クナ独特のドライブ感とグルーヴ感を持つ他の追随を絶対的に許さない圧倒的なワーグナー。

ワーグナー:舞台神聖祝典劇「パルジファル」(1964バイロイトLive)
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮バイロイト祝祭管弦楽団&合唱団
トーマス・スチュワート、ハンス・ホッター、ジョン・ヴィッカース、グスタフ・ナイトリンガーほか

以前、カラヤンの指揮する「パルジファル」を取り上げたことがある。カラヤンは決して好きな指揮者ではないのだが、時折オペラでは凄演をやってのけるので音盤はいくつか所持している。中でも「パルジファル」は素晴らしい。しかし、どちらかというとBGM的に流しながら聴くときにぴったりで、逆に、オーディオ装置の前できちんと居座りつつ、精神を集中して傾聴し、この楽劇を嗜もうとするなら間違いなくクナッパーツブッシュ盤に軍配が挙がる。1951年のバイロイト・ライブ然り、有名な1962年バイロイト・ライブ然り。カラヤンとクナ、どちらが優れているか否かという愚問はあえてしない。TPO、気分に応じて聴き分ければいいのである。

※ちなみに、今月末の「早わかり古典音楽講座」のお題はワーグナーである。この際、超大作楽劇「ニーベルングの指環」の世界を覗いていただいて、ワーグナーの毒に少々感染していただこうかなどと目論んでいる。明日からしばらくワーグナー漬けとなるだろう。

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