バルシャイ指揮ケルン放送響 ショスタコーヴィチ 交響曲第3番変ホ長調作品20「メーデー」(1994.9.30-10.3録音)

さあ、いよいよメーデーが近づいたぞ!
ソヴェト同盟のあらゆる工場・役場・学校の文化宣伝部委員たちは大忙しだ。
ブルジョア国の革命的プロレタリアートは、同じ頃、盛んにメーデー闘争の準備のために白色テロルと争いながら活躍している。
が、プロレタリアートが勝利したソヴェト同盟では、ほんとに解放されたプロレタリアート祝祭準備だ。
八時間労働がすむと工場クラブに集れ! そこでみんなが賑やかに熱心にメーデーの行列に持ち出す張り物、人形、スローガンを書いた赤いプラカードなどを制作する。
工場工場が趣好をこらして、見テロ! びっくりさせてやるからと、腕によりかけて、いろんなものを拵えるんだ。
何日もかかって、その仕度が出来上る。婦人労働者たちは、デモに着て出る服の手入れでもして、四月三十日になると、モスクワ全市の食糧品販売店では、火酒、ブドー酒、ビール、すべてアルコールの入った飲物を一斉に――売り出すのか? そうじゃない、反対だ。絶対にアルコール飲料は売らなくなる。
メーデーは神聖な世界プロレタリアートの祝日だ。ホロ酔い機嫌でデモに参加する奴なんかあっては、階級の面よごした。だから一切酒は売らない。
ロシア人は、何しろ毎日ビショビショ降りつづく十月にあの偉大な革命を遂行したぐらいだから、だいたい天気には無頓着だ、雨が降ったって、雪がふったって、傘なしで元気なものだが、メーデーの前日だけは、誰でもつい天気を気にする。
「あした、どうかな天気工合は?」
「よくしたいもんだ。もっとも、ちっとやそっとパラパラ来たって平気さ。去年だってお前、朝のうちは一寸落ちたが、プロレタリアの威勢を悦んで、昼頃は太陽が照り出したぜ。」

宮本百合子「勝利したプロレタリアのメーデー―モスクワの5月1日—」

初出は1932(昭和7)年5月。
ショスタコーヴィチの交響曲の雰囲気をそっくり引き継ぐような文章だが、わずか1世紀前に幻想のようなこのような現実があったことが不思議でならない(興味深いともいう)。

いくつもの「労働歌」が引用されているそうだが、残念ながら僕はまったくその方面に詳しくない。しかし、当時のソヴィエト連邦国内にあって、作風は、モダニズム、前衛的な表現はまったく影を潜め、実にわかりやすく、開放的な音調になっている点が、二枚舌ドミトリー・ショスタコーヴィチの真骨頂だろう。

・ショスタコーヴィチ:交響曲第3番変ホ長調作品20「メーデー」(1929)
ルドルフ・バルシャイ指揮ケルン放送交響楽団(1994.9.30-10.3録音)

(マヤコフスキーの影響を受けた)セミヨン・キルサノフの詩を引用した合唱を伴う単一楽章の交響曲。いわゆる社会主義リアリズムの権化たる音楽だが、フィナーレの合唱の前向きさは、いかれた(?)大衆を煽動するのに相応しい。
作曲家の魂と同期するルドルフ・バルシャイの、崩壊したソヴィエト連邦の亡霊を黄泉の国から呼び戻したようなリアリスティックな名演奏。
2025年のメーデーに。

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