へヴィー??

モーツァルトの「魔笛」K.620はジングシュピール。つまり、ドイツ語で歌われるオペラである。本来はメルヘンとして書かれているのだが、実はドイツ的な重厚さと物語の哲学性を内在しており、音楽、台本ともども「ヘヴィー」が似合う歌劇だ。そして、同じくモーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」K.527はイタリア語オペラだが、人間心理の動きが中心テーマであるその筋書きや、そもそも重く書かれた音楽からこちらも「ヘヴィーな演奏」がとてもよく似合う。
一方、モーツァルトのオペラの中で最も人気が高いのは「フィガロの結婚」K.492だと思うが、これはイタリア語で歌われ、軽快なテンポで物語が進行するオペラ・ブッファ、つまり喜劇なのである。よって僕の個人的な見解では「ヘヴィー」は似合わない。

例によってザルツブルク音楽祭のライブ(1953年)であるフルトヴェングラーの全曲盤が残されているので、こちらも10数年ぶりにほとんど初めてまともに真面目に聴いてみた。個々のアリアなどはとても素晴らしく、さすがはフルトヴェングラー、聴くべき箇所は多いのだが、とにかく重い、重すぎる。そして、残念ながらドイツ語での歌唱にとても違和感が残る。とはいえ、序曲からして、フルトヴェングラー節そのものの演奏なので、「フィガロ」を聴くのではなく、「フルトヴェングラーのモーツァルト」を聴くという観点から考えれば、それはそれで納得、「一聴の価値あり」である。聴衆の拍手も壮大で、やはりその日その会場にいた人々は無上の喜びを味わっているのだろう。

モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」K.492(1953年Live)
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
エリーザベト・シュヴァルツコップ、エーリッヒ・クンツ、イルムガルト・ゼーフリート他
※CDは廃盤のようだ。

ちなみに、このオペラで僕のお気に入りは、エーリヒ・クライバー&ウィーン国立歌劇場盤。序曲の速いテンポから一気にフィガロの世界に引き込まれる。
僕はもともとどちらかというと「ユックリズム」が好きな性質だったのだが、歳をとるにつれて軽快なテンポにもかなり順応し(ただテンポが速けりゃいいてもんじゃないが・・・)、時にはそういう演奏もいいものだと感じれるようになった。父クライバーの演奏然り、息子のカルロスの演奏もそう。そして何よりムラヴィンスキーの直截的な音楽創りが素晴らしい。

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1 COMMENT

アレグロ・コン・ブリオ~第5章 » Blog Archive » peter gabriel deutsches album

[…] その昔、現地語でのオペラ上演が当たり前のような時代があった。 例えば、フルトヴェングラーが指揮する「フィガロの結婚」はドイツ語上演で、残念ながらこれは未だに違和感があるが、日本でも朝比奈先生が「蝶々夫人」などを自らの日本語訳台本で上演されていたという話は有名。確かに、舞台の台詞が母国語でやられると内容がスムーズに理解でき都合は良いが、オペラの場合、言葉(歌詞)を音楽の一部として捉えるのが通常なので、やっぱり座り心地が悪いのは否めない。 今頃ではそういう冒険をする人はいなくなったのだろうが(聴衆にニーズがなくなったともいえる)、オペラにせよ何にせよ、声楽曲の邦訳での上演というものがあったら聴いてみたいとたまに考えることがある。 […]

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