憧憬

ルキノ・ヴィスコンティ監督の「ヴェニスに死す」はトーマス・マンの同名小説を原作とした傑作映画である。もう30年近く前になるが、初めて劇場で観たときは鳥肌が立つほど感動したものである。僕自身は決してゲイ、ホモではないのだが「人間が人間に憧れる」、それも、たとえ同性だとしても「心の底から震えるほど人を好き」になるということはあっていいことだと思う。
そして、何よりも僕の心を捉えたのはヴィスコンティの音楽の使い方。エッシェンバッハ博士がタッジオ少年を陰から見つめるたびに湧き起こる「愛」とも「恋」ともつかない感情を見事に表現し、その映像にかぶさるように流れる音楽。それが、グスタフ・マーラーのアダージェットだったのである。

マーラー:交響曲第5番嬰ハ短調
レナード・バーンスタイン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団


当時、結婚して間もないアルマに対する音のラブレターなのか、こんなに静かで憧れに満ちた音楽が他にあるだろうか。確かに第5交響曲の他の楽章には「支離滅裂」感があることは否めない。ハープと弦楽器のみで演奏されるこの第4楽章だけ浮いたような印象を与えるのである。

名盤は数多あるが、ここではバーンスタインが晩年に録音したウィーン・フィルとの音盤を取り上げる。こんなにうねりの効いた「魂の慟哭」ともいうべき演奏は聴いたことがない。

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アレグロ・コン・ブリオ~第3章 » Blog Archive » またしても「真夏の夜の夢」

[…] ルドルフ・バルシャイがユンゲ・ドイチュ・フィルハーモニーを振って録音した第5交響曲を聴いた。かのアダージェットももたれず美しい(マーラーが初演では7分30秒で流したようだが速すぎはしまいか・・・。僕はバーンスタインの遅いテンポのとろけるような耽美性がやっぱり好き)。(それにしてもライヴとは思えない精緻なアンサンブルに度肝を抜かれます) […]

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