
ベートーヴェンの最後の弦楽四重奏群にインスパイアされた、若きメンデルスゾーンの果敢な挑戦たる弦楽四重奏曲たち。
メンデルスゾーンは、モーツァルト同様いわゆる神童だったが、発表作品の多くが姉ファニーの作曲ではないかと揶揄されることもあり、共同作品の可能性も鑑みつつ、やはりその美しさに魅かれるという意味において、具体的に誰の作品なのか、真作なのか偽作なのか、そんなことはどうでもよくなってくることが面白い。
個人的には初春から初夏にかけ、つまり今頃の季節に似合う、その明朗さに、そして軽快さに、天才だと確信する。
ハインリヒ・ハイネの絶筆・・・「ムーシュのために」。
しかし私の墓の上には
珍しいかたちの、菫の花が咲いていた。
花びらは硫黄いろの黄とそしてむらさきだった。
そして花のなかには野性的な愛の力が生きていた。
そんな花がわたしの墓に咲いていた。
そして私のなきがらの上に身をかがめて
私の手に、額に、眼に接吻した、
悲しげに、無言に、恰も女ごころの嘆きのように。
しかし夢の持つ妖術よ! 不思議にも
硫黄いろの情熱の花は
一人の女の姿に変容した、
そしてそれがあなただった—まさにあなただった。
~片山敏彦訳「ハイネ詩集」(新潮文庫)P204-205
メンデルスゾーンの音楽にも(それもモーツァルトと同じように)言葉に表現できない哀しみが潜む。何だか現実を超えた、夢のような、悲哀がそこにある。
明るくも哀しい四重奏曲 久しぶりにアルバン・ベルク四重奏団を聴いた。
年月を重ねるにつれ、四重奏団の演奏は鋼のように研ぎ澄まされたものからもっと柔らかい、自然との調和を軸にしたような、真の中庸に根ざした、ありのままの美しさがあった。
第1番は、ウィーンはコンツェルトハウス大ホールでのライヴ録音。
一方、第2番は、楽友協会大ホールでのライヴ録音。
清廉という言葉がぴったりの、そしてまた明朗快活という言葉が正鵠を射る、メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲の名演奏。
ライヴならでは生命力を感じさせる、脂ののった時期の四重奏団の演奏は、力強く自然体だ。
願わくば、残りの四重奏曲も録音を残していただきたかった。
