真夏の夜の夢

ここのところ「もう一人のメンデルスゾーン~ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼルの生涯」(山下剛著)を、折を見て読んでいる。生まれ育った19世紀前半という時代背景が大きく影響し、ファニーが自身の才能を100%飛翔させることなく、あくまで弟の陰に隠れてひっそりと人生を、自身に強く納得させながら生きたことがよくわかって面白い。
伝記によると、ピアノ演奏の面でも作曲の面でも実弟より圧倒的に能力が高かったらしい。21世紀の今なら大活躍できる人だったのだろうけど・・・。フェリックス・メンデルスゾーンの作品のどれくらいがファニーの作なのだろう?「無言歌集」などは結構彼女が書いているということがわかっているようだが、少年時代の天才的作品である「真夏の夜の夢」序曲なども意外にファニーの智慧が入ってたりして・・・。事実はまったくわからないが、そんな想像をしながらソウルメイトのようなメンデルスゾーン姉弟の音楽をじっくり聴くのは至福の時間。

1847年、ファニーが亡くなるやその数ヶ月後にフェリックスもこの世を去る。相思相愛の夫婦か恋人か、そんな関係に思えてならないほど。ちなみに、1821年に12歳のフェリックスが初めて文豪ゲーテと邂逅し、その場に居合わすことができなかったファニーが弟に宛てた手紙。

「ゲーテのところに行ったら、目と耳を全開にするんですよ。そう忠告しておくわ。それからあなたが帰ってきてゲーテが言ったことを一言残らず話してくれなかったら、私たちの間柄もこれっきりだと思いなさい。・・・私が16になるときに、私のことを思い出してよ。もう一つ、心の中で私の回復を祈ってワインを一口飲まなくてはだめよ。くれぐれもお願いよ。・・・さようなら、あなたは私の右手であり、それに私のかけがえのないものだということ、だからあなたがいないと音楽がどうしても流れようとしないということを忘れないでください。・・・」

メンデルスゾーン:
・劇付随音楽「真夏の夜の夢」
・「フィンガルの洞窟」序曲
・「美しいメルジーネの物語」序曲
・「ルイ・ブラス」序曲
シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団

美しく完璧なフォルムの「真夏の夜の夢」序曲。フェリックス17歳の時の傑作だが、ファニーについて知り、この音楽がもともとファニーとのピアノ連弾用に作曲されたという事実を知ると、姉の智慧がどれくらい入っているのだろうかと詮索したくなる(笑)。しかし、よくよく考えると2人は(たまたま姉弟だったというだけで)19世紀のレノン=マッカートニーのようなコンビなのかもしれない。意外にファニーがメロディメイカーで、フェリックスがアレンジ・構成をするという立場で仕事をしていたり・・・。そんなことを想像しながら聴くと素敵・・・。あまりに有名過ぎる「結婚行進曲」。この開放的な名作も2人の共作だろうと考えるだけでワクワクする。繰り返し聴き、なんて良い音楽なんだろうと・・・。

それにしてもデュトワの棒は相変わらず素晴らしい。もう20数年の愛聴盤。今のところこれの右にでる録音はなし(かのクレンペラー盤ですら太刀打ちできない。デュトワの新録リリース情報が滞っているのが気になる。どうなってるのだろう・・・)。


10 COMMENTS

雅之

おはようございます。

ご紹介の山下剛氏の本は、勉強になりますよね。

>美しく完璧なフォルムの「真夏の夜の夢」序曲。フェリックス17歳の時の傑作だが、ファニーについて知り、この音楽がもともとファニーとのピアノ連弾用に作曲されたという事実を知ると、姉の智慧がどれくらい入っているのだろうかと詮索したくなる

100パーセント同感です。間違いなくお姉さんとの合作でしょう。

「真夏の夜の夢」序曲初演の1927年、フェリクスは『12の歌曲集』も出版していますが、そのうちの三曲、「郷愁」「イタリア」「ハーテムとズライカ」は姉・ファニーの作品らしいですね。
その、ファニー作曲の「イタリア」
http://www.youtube.com/watch?v=OSA029AGsY8&feature=related
はヴィクトリア女王の愛唱歌となり、フェリックスが女王に謁見した際、「本当は姉の作品なのです」と告白したとのエピソードがあるそうですね。

フェリックス・メンデルスゾーン1831年から1833年にかけて作曲した、有名な、交響曲第4番『イタリア』についての記事
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%A4%E9%9F%BF%E6%9B%B2%E7%AC%AC4%E7%95%AA_(%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%82%BE%E3%83%BC%E3%83%B3)
を読んでも、ファニーの意向が入っている香りが、どことなく漂ってきますよね。

「この交響曲はフィルハーモニック協会に2年間の独占演奏権が与えられていた。そのためメンデルスゾーンの手元にスコアはなかった。そこでメンデルスゾーンは姉などに聞いたり自分の記憶を頼りにして改訂を始めた。1835年の2月までに第2~4楽章は改訂し終えた(第2稿)ものの、第1楽章は大がかりな改訂が必要と考えていたようで、完成していなかった」

改訂に際し姉の記憶を頼りにしたということは、それだけ姉も、この曲のスコアによく熟知し、チェックしていたということではないでしょうか。いや、この曲でも姉のアイディアが、かなりの部分を占めている可能性があるのではないでしょうか。

「メンデルスゾーンの死を悼んだビクトリア女王の命で、フィルハーモニック協会は1848年3月にこの曲(交響曲第4番『イタリア』)を再演した」・・・・・(同 ウィキペディアより)

ビクトリア女王の脳裏には、きっと、ファニー作曲の歌曲「イタリア」にまつわる思い出も、同時に去来したことでしょうね。

>デュトワの新録リリース情報が滞っている

CD産業自体がもはやどうしようもなく斜陽、ということに尽きるでしょう。
秋元康みたいにあざとくやらないと、簡単にCD録音では儲からないようですね。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
ファニーの「イタリア」という歌曲は初めて聴きましたが、魅力的ですね。
彼女が作曲者としてクレジットされている音盤は少ないと思うのですが、いろいろと聴いて研究してみたくなります。
(実際には弟の作品の多くに彼女の魂が刷り込まれているでしょうが)
メンデルスゾーンに関する日本語文献も少ないので、細かいところまで掘り下げるのは大変そうですが、それでもご紹介いただいたサイトなどを見る限り2人はやっぱりソウルメイトだと僕には思えます。

>ビクトリア女王の脳裏には、きっと、ファニー作曲の歌曲「イタリア」にまつわる思い出も、同時に去来したことでしょうね。
こういう事実を踏まえた上で作品をじっくり聴くとより理解が深まります。

>秋元康みたいにあざとくやらないと、簡単にCD録音では儲からないようですね。

そういうことなんですよね・・・。やっぱり実演を聴け、ということでしょうかね。
以前ご紹介いただいた、坂本龍一のインタビューにもそのようなことが書いてあったように記憶しますし、先日のコメント上の話題でも実演の大切さが話題になりましたが。

本日もありがとうございます。

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畑山千恵子

フェリックス・メンデルスゾーン生誕200年で、メンデルスゾーンの実像がかなり明らかになってきました。メンデルスゾーンは作品に対して大変自己批判が厳しく、未完で残ったものも数知れずあります。そうした作品を補作したものも出ています。
メンデルスゾーンはユダヤ人だったため、差別、嫌がらせが多く、就職、仕事などを妨害されることがよくありました。ちなみに、中川右介「ショパン 天才の秘密」(静山社)では、やたら、メンデルスゾーンをお坊ちゃん呼ばわりして中傷するような書きぶりが目立ち、いただけませんでした。メンデルスゾーンがお坊ちゃんだったとしても、ユダヤ人ということで泣かされてきたことは重い事実です。
アメリカ独立、フランス革命でユダヤ人に市民権が与えられるようになったとしても、19世紀では、ユダヤ人が社会進出するにはまだまだ大変でした。メンデルスゾーンもそうした時代の重圧を感じつつ、音楽家として生きてきました。樋口裕一「音楽で人は輝く」(集英社)では、こうした現実も踏まえた書き方をしていて、好感が持てます。

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岡本 浩和

>畑山千恵子様
こんにちは。
ご紹介いただいた書籍はいずれも未読ですが興味深いです。
音楽の世界に限らずユダヤ問題というのは根深いものがあると思いますが、もう少し勉強したいとおもっております。
今後ともご教示よろしくお願いいたします。

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雅之

ユダヤ問題ですが、いつかも話題にしましたが、
同じユダヤ人作曲家であったマーラーの、交響曲第5番冒頭
http://www.youtube.com/watch?v=M8jDSIcH_1Q
での、
メンデルスゾーン:無言歌集 No.27 ホ短調作品62-3「葬送行進曲」
http://www.youtube.com/watch?v=M8jDSIcH_1Q
との関連について、
どなたか音楽を詳しく研究されているかたからの、ご教示をいただきたいものです。

マーラーは交響曲第5番のスケッチから完成までの間(1901年夏~1902年夏)である、1901年11月に解剖学者ツッカーカンドル家のサロンに招待され、当時22歳のアルマ・シントラーと出会い、12月には婚約を発表、翌1902年3月9日に結婚しました。
メンデルスゾーン「夏の夜の夢」での超有名な結婚行進曲とも、何か関係がありそうなのですが・・・。

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岡本 浩和

>雅之様
こんにちは。
この話題、以前もコメントいただいておりますが、核心に触れるような情報を得ておりません。
おっしゃるようにどなたか研究されている方から教えていただきたいものです。
こういう話題こそ「レコ芸」あたりが採り上げてくれるとありがたいのですがね・・・。

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