脱力的作品

週末の「早わかりクラシック音楽講座」の資料を準備する時間がいよいよとれない。これまでの経験上少なくともまる1日は音盤を聴いたり、書籍とにらめっこしながらでないと相応のものができないことは承知。うーん、どうするかと悩んだ挙句、5年目に入ったこともあり趣向を変えて「座談会」形式でやりとりしながら音楽を堪能する手も良かろうと思い立った。要はこれまでほとんど僕の一方通行の講義形式だったものを、少ないながらもご参加いただく方の知恵を拝借しながら、そこに作曲家の人生や音楽そのものの要素を採り入れながら進めていくというもの。マンネリ化を避けるためにそろそろ新しい方向性をと探っている時期だからそれはそれで非常に面白いかもしれない。

何事も相互交流が大切。学生にも就職採用試験の面談においては「ドッジボールでなくキャッチボールを」と口酸っぱく教えているのだから、ご参加いただく方とのコミュニケーションを主体にしての講座もあり。よし、その方向で「ファニー&フェリックス・メンデルスゾーンの(ソウルメイト的)世界」を紐解いてみよう。

西洋クラシック音楽を聴きながら、やっぱり日本人の我々には理解し得ない「文化的背景」が頑然と存在することを痛感する。マーラーやメンデルスゾーン(そしてワーグナー)と切っても切れないユダヤ問題。先日来の「結婚行進曲」、「葬送行進曲」とマーラーの第5交響曲第1楽章冒頭の類似性。そして、今後ろで流れているメンデルスゾーンの第5交響曲第1楽章冒頭に現れる「聖杯の主題」。ワーグナーの「パルジファル」にも現出する有名なあの主題。キリスト教文化圏でない僕らにはわかり得ないだろう深い意味が隠されていそう。(嗚呼、好奇心が疼く。知りたい、わかりたい・・・笑)

メンデルスゾーン:
・交響曲第4番イ長調作品90「イタリア」
・交響曲第5番ニ短調作品107「宗教改革」
・交響曲第4番作品90―第2楽章~第4楽章(1833/34年改訂版)
ジョン・エリオット・ガーディナー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

このガーディナー盤の特長は、おそらくフェリックスの独断と偏見による改訂稿の演奏が収録されている点。結局第1楽章が完成に至らず中途半端に終っているのも頷ける。やっぱりいわゆる原典版のほうが余計な力が入らず、ファニーとのバランス良い共同作業でなされているであろう「脱力的」代物だと繰り返し聴いて思う(ファニー&フェリックスというのは最強の作曲コンビであることがこれを聴いてみて実感させられる)。

※ちなみに、このガーディナー盤の価値は「イタリア」交響曲より、「宗教改革」にあるように僕は思う。見通しの良い素敵な演奏。


3 COMMENTS

雅之

おはようございます。

ごめん、岡本さん! 今回のテーマは私の理解や知識を超えた部分が多過ぎて、朝の短い時間ではコメントがうまく纏まりません。改めてメンデルスゾーン姉弟、宗教、ユダヤについて、時間のある時にじっくりと考察してから再コメントしてみたいです。

「宗教改革」の作曲が開始された1929年は、フェリクス(20歳)が自らの監督により3月11日、バッハ:《マタイ受難曲》の公開演奏を、ジングアカデミーで作曲者の死後初めて行ったという、記念すべき年でしたよね。

その翌月には、こんな出来事もあったようです。

>水害のための慈善演奏会を自ら主催し、そこで序曲《夏の夜の夢》を演奏、
大反響を呼ぶ。

※参考サイト
フェリクス・メンデルスゾーン・バルトルディ&
ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼル ~その生涯~ より
http://www.aurora.dti.ne.jp/~eggs/felixprof.html

ところで、昨日仕事の帰りにぶっらっとHMVに立ち寄って衝動買いし、
さっそく家で聴いたCD。
やっぱ久々に聴くアルゲリッチはいいですね。
岡本さんにいただいたクレーメルとの共演盤とともに、
これも当分私の「お宝」になりそうです(笑)。

シューマン:ピアノ協奏曲&ショパン:同第1番 
アルゲリッチ、アルミンク&新日本フィル(2010)
http://www.hmv.co.jp/product/detail/4074191

HMV レビュー より

アルゲリッチ/シューマン&ショパン:ピアノ協奏曲
東日本復興支援チャリティCD緊急発売!
仙台の工場で製造

 昨年、シューマンとショパンの生誕200年を記念した彼女のコンサートが、東京・すみだトリフォニーホールで行なわれました。この二晩のコンサートは、高品位録音で記録され、これを収めたCDが、今年70歳を迎えるアルゲリッチの誕生日(6月5日)を祝う目的で準備されておりました。
 しかし、3月11日に発生した東日本大震災に心を痛めたアルゲリッチと指揮者アルミンク、および新日本フィルハーモニー交響楽団は、この録音の一部を復興支援のためのチャリティCDとして発売することを決定いたしました。
 このCDは、震災で被災したのち早期に復旧を果たした(株)オプトロムの工場(仙台市青葉区)でプレスされています。公演のためかつて訪れた仙台でこのCDが製造されることに、アルゲリッチ本人は東日本復興の兆しを感じております。

【マルタ・アルゲリッチからのメッセージ】
地震の犠牲となられた方々のため、私にできることはなんでもいたします。
シューマンとショパンのライヴ録音もそのために役立ててください。
私は日本の状況をとても憂い、とても気にかけています。
ニュースをずっと見ていますが、日本の皆様の計り知れない痛みと、
それに耐える勇気を感じ、皆様への深い愛と尊敬の念を抱かずにはいられません。一刻も早く日本を訪れることを願っています。
言葉ではとても表現しつくせなくてごめんなさい。
マルタ・アルゲリッチ

※参加したアーティスト全員が録音印税を放棄し、収益を楽器や楽譜を失った被災者の復興支援のために寄付します

【収録情報】
・シューマン: ピアノ協奏曲 イ短調 op.54
・ショパン: ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 op.11

 マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
 新日本フィルハーモニー交響楽団
 クリスティアン・アルミンク(指揮)

 録音時期: 2010年11月28日(ショパン) 、12月1日(シューマン)
 録音場所:すみだトリフォニーホール(ライヴ収録)
 録音方式:デジタル(ライヴ)

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雅之

正誤表

誤 「宗教改革」の作曲が開始された1929年は、

正 「宗教改革」の作曲が開始された1829年は、

いつもすみません。

返信する
岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
毎朝お忙しい時間に恐縮です。
しかし、前から思っていたのですが、そういう短い時間の中で優れたコメントを書いて頂ける雅之さんの見識の広さと深さに脱帽です。前日夜に見ておいて一晩考えて書いてらっしゃるのかなとも思ったことがありましたが、深夜にアップすることも多いので、やっぱり出勤前の短い時間の中で書かれているのだなぁと感心することしきりです。

ところで、「マタイ」の蘇演も3.11だったんですね。確かに同じ年に「宗教改革」を書き始めておりますからバッハとの関連性も見逃せないと思います。

ちなみに、ご紹介のアルゲリッチ盤、僕は未聴ですが、そういえばふみ君が実演を聴いたように前に言ってました。素晴らしい名演奏だったとのこと。またシューマンか・・・、またショパンか・・・、とも思っていたのですが、雅之さんのおすすめとあらば聴いてみたいですね。ありがとうございます。

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