愛知とし子ピアノ・リサイタル第1夜

自称晴れ女だという愛知とし子だが、六本木シンフォニーサロンでのリサイタル当日は結構な頻度で雨になる。昨晩も会場直前から雨が降り出す始末。交通網の乱れも多かったようで、お客様の到着にも影響があったので開演時間を5分遅らせてスタートした。

早わかりクラシック音楽講座コンサート・シリーズVOL.2
愛知とし子ピアノ・リサイタル
華麗なる変身~フランツ・リスト生誕200年によせて~
2011年6月16日(木)19:00開演
六本木シンフォニーサロン

・シューベルト:即興曲第3番変ロ長調作品142-3
ピアニスト本人に言わせると完璧な演奏だったとのこと。残念ながら受付対応していた僕はドア越しに漏れ出る音をたよりに聴いていた程度ゆえ詳細は語れず。次回公演でしっかりと聴くことにする。

この後、10分ほど解説を。シューベルトのこと。そしてリストについて。特に、ヴィルトゥオーソ・ピアニストとして活躍した彼が、リサイタルを創始し、しかも現在の形式(ピアノの位置や向きをあの形にし、蓋を開けたこと。そして基本暗譜で、古今の作曲家の作品をレパートリーのしたこと)を生み出したという話などを。

・ショパン(バラキレフ編曲):ロマンス(ピアノ協奏曲第1番ホ短調作品11第2楽章)
このバラキレフ編曲のショパンは真に美しい。ショパンの詩情にロシア的感性を加味して一層の人間愛を謳うような・・・。お客様の中でもこの「ロマンス」が気に入ったと言ってくださった方も多かった模様。

・リスト:愛の夢第3番S.541
・リスト:パガニーニ大練習曲~第3曲「ラ・カンパネラ」、第4曲「アルペジオ」、第6曲「主題と変奏」
圧巻はやっぱりパガニーニ・エチュード!六本木シンフォニーサロンは、会場の音響効果が抜群で、というより鳴り過ぎるくらいで、ピアニストもできるだけ音量を小さめにコントロールしながら弾くのだが、それでも圧倒的な響きの中にフランツ・リストの天才を垣間見せてくれた。

15分の休憩後後半に。

・メンデルスゾーン(リスト編曲):歌の翼に
・メンデルスゾーン:厳格な変奏曲ニ短調作品54
開放的で明るいイメージのメンデルスゾーンにあって、この「厳格な変奏曲」はタイトル通り地味で暗い印象を受ける。しかし、この中にこそ、姉ファニーの呪縛を逃れようやく独り立ちできた(と思われる)作曲家の「自信」が浮かび上がる。愛知とし子の抜群のセンスがその心に輪をかける。有名な「歌の翼に」と比較してみると音楽家としての力量が深化していることが明らか(ひょっとするとこの曲はファニーの力を十分に借りているのかも)。

ここでまた10分ほどのレクチャーを。メンデルスゾーンの話、そして偉大なるベートーヴェンについて。

・ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番変イ長調作品110
第1楽章の「憧れ」も「喜び」も、愛知とし子は十分に感じ抜いて表現する。第2楽章の激烈な不安の爆発も見事。そして「悲嘆」の心情を心静かに歌い、最後のフーガに・・・。アクシデントに見舞われたものの、やはり彼女の真骨頂はベートーヴェンにあることが証明された模様。25日が一層期待される。

アンコール~
・J.S.バッハ/グノー:アヴェ・マリア(愛知とし子編曲)
グノーは20歳の頃、ファニー・メンデルスゾーンのピアノ演奏に魅了され、この年上の音楽家を尊敬するようになり、以降頻繁に交流をもつようになる、実はこの有名な旋律はグノーのものではなくファニー・メンデルスゾーンの作ではないかとの説もあるようだ。驚きである。

さて、次回公演まで1週間。より一層磨きのかかったパフォーマンスが期待されよう。


3 COMMENTS

雅之

おはようございます。
16日のリサイタル、お疲れさまでした。
私は25日のほうしか聴けませんので、今回の内容についてはコメントできません。

>アクシデントに見舞われたものの

どのようなアクシデントか知る術もないですが、愛知とし子さんの演奏の本質はベートーヴェン。実演にアクシデントは付き物。ジョン・ケージ流にいえば、どんなアクシデントも、れっきとした「即興」です。

・・・・・・ベートーヴェンは即興演奏が得意で、時には聴衆があまりに素晴らしさに涙するほどだったそうです。また、ウィーンの他のピアニストに「あの若者には悪魔が潜んでいる。あのような演奏は1度も聞いたことがない!」と言わせしめたほどです。オーケストラの指揮もそうでしたが、彼は体全体で演奏しました。フォルテシモは手を高く上げ、レガートでは滑らかな指はこびをするため、体を鍵盤の上に丸くして弾いたそうです。そして、一旦演奏を始めると、我を忘れて鍵盤を叩きました。そのため弦だけでなく、ハンマーも壊れることがあり、即興演奏を始めた最初の和音で、いきなり6本もの弦を切ったことがあったそうです。

ベートーヴェンのピアノ演奏法にも問題があったのかもしれませんが、18世紀後半のピアノ弦には、前述のような強度の低い真鍮(黄銅)線や鉄線による弦が用いられていましたので、やはり切れやすかったのでしょう。切れた弦は助手が演奏中に外してまわりました。弦が切れても演奏できたということは、複弦の一部が切れたのでしょう。それにしてもベートーヴェンらしいと思いませんか。・・・・・・鈴木金属工業株式会社 サイトより
http://www.suzuki-metal.co.jp/story/music/04.html

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。

>実演にアクシデントは付き物。ジョン・ケージ流にいえば、どんなアクシデントも、れっきとした「即興」です。

おっしゃるとおりですね。
これでまた25日がより一層楽しみになりました。

それにしてもベートーヴェンの即興は一度聴いてみたかったです・・・。

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