人生の機微

昨日あたりがおそらく今年の節目だったようで、仕事もプライベートもまたまた充実してきている。8月はどちらにしても夏休みのつもりだったので、必要な用件は徹底的にこなすつもりだが、帰省も含めて少しはのんびりする予定。

ここ2,3日は変奏曲を聴きながら、人生の機微について考えるところがあった。もともと暗い性格だから(笑)、そういうときはとことんまで夢想・妄想を繰り返すのだが、逆に名曲を耳にすることで頭が真っ新になり、リフレッシュできるのだから「音楽」というのは真に都合が良い。

さてさて、ベートーヴェンの至高の傑作「ディアベリ変奏曲」を聴く。
もちろん1ヶ月後のピーター・ゼルキンのリサイタルに向けての予習という意味合いもあるが、泣いて笑って喜んで、そして溜まった感情を発散させてみるのもよかろうと思って、このあまりに哲学的で難解な作品を手に取った次第。しかも、通常なら4,50分で演奏されるところを60分超で弾くウゴルスキ盤で。

ベートーヴェン:ディアベリのワルツによる33の変奏曲ハ長調作品120
アナトール・ウゴルスキ(ピアノ)

やっぱりウゴルスキというのは天才。聴衆を眠らせずにこの作品を聴かせるのはなかなか難しい技だと思うのだが、彼はそれぞれの変奏に思索的で深沈たる趣の表現ながら、まったく飽きさせずに緊張の糸を切らずに最後まで聴かせる(特に後半部の方は言葉でまったく表しがたい!)。いや、本当に見事。まだまだディアベリ変奏曲を理解したとは言い難い僕だが、こんなにも集中して聴けたのって初めてかも。恐れ入ります。

しかし、前にも書いたが僕にとっての痛恨事は一度もウゴルスキの実演に触れ得ていないこと。最近は新録音のリリースも滞っているし(数ヶ月前にマイナーレーベルからスクリャービンのソナタ全集がリリースされているのを店頭で見かけたが、何となくその時はスクリャービンという気分でなかったのでスルーしてしまった)、来日公演もないし、そろそろ新しい動きを起こしていただきたいもの(とにかく生演奏が聴きたーい)。

明日からまたいろいろと動きがある。
あんまり短絡的にならないで、ましてや感情論に走ることなく、ただひたすらに現実に対峙し、「今」を謳歌しようとあらためて決意。昼間、神保町での打ち合わせ後久しぶりに明治神宮を詣でた。黄昏時、とても涼しい風が僕を癒してくれた。

10 COMMENTS

雅之

こんばんは。

今夜も雑感を。
クラシックを聴くだけっていう趣味は、音だけなので、他の趣味と比べて思い込みが激しくなり、ひとりよがりな人になりがちで危険ですね。多趣味の私が言うんだから間違いないです。他の趣味では、人間関係や、自然との触れ合い等、もっと外界との接点や交わりの機会が多いものです。クラシックが趣味なら演奏もかじりなさいって勧めるのはだから・・・。

この歳になって、ネガティブを許さないビジネスなど実社会と、治外法権でポジティブとネガティブが等価値の芸術に接する時との、折り合いの付け方が、やっと上手になってきました。ポイントは、

① できるだけ視野を広げ自分軸を太くする。

② 視野を広げると自分軸の土台も広くなり安定するので、
  最も大切な中心軸を高くすることもできる(東京スカイツリーみたいに)。

③ 自分軸の基礎工事はうんと深く、かつ念入りにしたほうがよい。

「ディアベリ変奏曲」、私は定跡通り、ブレンデルの新旧盤やアラウで覚えました。
もう、人生の残り時間を考えると、この曲の音盤はこの2枚だけで充分というのが本音です。音楽以外の趣味もたくさんやりたいし・・・。
あとは、邦人ピアニストの実演で納得したい。外人はいらんです。
あえて言えば、愛知とし子の演奏しかあり得ない。それが私の真実。

以上 

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
整理されたポイント、わかりやすいです。ありがとうございます。
視野を広げること、大局観でのものの見方って本当に重要ですよね。
感情が先走ってついついものの見方が狭くなることが多いので、気をつけたいと思っています。

>あとは、邦人ピアニストの実演で納得したい。外人はいらんです。

なるほど、達観されてますね。最近の雅之さんは本当に仙人のようで(笑)。

>あえて言えば、愛知とし子の演奏しかあり得ない。

本人は喜ぶかな?それとも・・・(笑)
いずれ弾いてもらう機会があればいいですね。

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雅之

>最近の雅之さんは本当に仙人のようで(笑)。

だから、ベートーヴェン後期の心境がよくわかるようになりましたよ(笑)。
「ディアベリ変奏曲」も昔は退屈だったけど、今聴くと最高です。

なんというか、思考がフリーハンドなんですよね。それが人間の強さと器の大きさにつながってるような気がする。

結果、アキレス腱や死角が減るんですよ、たぶん。

そうなれば「向かうところ敵なし」、どこからでもかかってこい!! ですね(笑)

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。

>なんというか、思考がフリーハンドなんですよね。それが人間の強さと器の大きさにつながってるような気がする。結果、アキレス腱や死角が減るんですよ、たぶん。

フリーハンドという表現がすごい!固定概念に縛られず、それこそ「あるがままに」ですかね。
人事を尽くして天命を待つですね。

ありがとうございます。

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畑山千恵子

私もピーター・ゼルキンのリサイタルへ行きます。ベートーヴェンのディアベリ変奏曲には、バックハウス、リヒター・ハーザー、シュヌア、井上直幸、コルシュティクのものがあります。
ピーター・ゼルキンはルドルフ・ゼルキンを父に持つこともあって、20世紀音楽から自分探しを始めました。今、バッハ、ベートーヴェン、20世紀音楽を中心に自分の道を歩み始めたといえるでしょう。楽しみですね。

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岡本 浩和

>畑山千恵子様
おはようございます。
そうですか、ピーター・ゼルキン行かれますか!
またお会いできるかもしれませんね。
お見かけしましたらお声かけさせていただきます!

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yoshimi

ディアベリは好きな曲なので10種類以上は聴きましたが、個性的なムストネンと耽美的なソコロフ、音がとても綺麗で繊細さのあるアンダなど、好きな録音は多いです。
アラウの新盤は吉田秀和氏が絶賛しておられましたが、メカニックがかなり崩れていて、最後まで聴きとおすのはムリでした。技術以上のものがあるのでしょうけど、今の私には理解不能な域にあるらしいです。

ウゴルスキは、有名なブラームス作品集のCDがようやく再販されましたが、いつ聴いても”ウゴルスキ”のという形容詞をつけずにはいられない独特な表現のブラームスですね。
《左手のためのシャコンヌ》や《ヘンデルヴァリエーション》は、異聴盤の中でもとりわけ個性的で独自の世界を構築してますから、これがブラームスなのだろうか?と否定するよりも、聴き入ってしまいます。

返信する
岡本 浩和

>yoshimi様
おはようございます。
コメントをありがとうございます。
ウゴルスキのブラームスは僕も長年愛聴しております。

>個性的で独自の世界を構築してますから、これがブラームスなのだろうか?と否定するよりも、聴き入ってしまいます。

確かにそうですね。彼の録音はどれも個性的で、時にフォルムを逸脱する傾向にありますが、本当に聴き入ってしまいます。

ところで、ディアベリに関しては僕自身まだまだ自分のものに出来たとはいえません。様々な音盤を聴いてらっしゃるようですので、聴き所、ツボなどをご教示いただければ幸いです。

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yoshimi

音楽を聴くのは”ノウハウ”では伝えがたいものがあり、聴き方のツボとかいうのは実際のところ私にはよくわかりません。
演奏の聴き所はピアニストによって違いますし、それをここで書くのは大変なので、私のブログ記事がいくつかありますので、お暇があればそちらをご参照ください。

”ものに出来る”という意味がよくわからないのですが、ディアベリに限らず、楽譜を見ながら聴けば、ピアニストの譜面上の解釈はわかります。
技術的な処理(音色の違い、声部の分離と内声部の処理、ディナーミク、フレージングや音の長さの設定など)や表現の違いなど、細部まで比較できるはずです。

ディアベリに限って言うとすれば、ブレンデルのように各変奏の性格を言葉で端的に表すと、その違いが明確になり、展開がわかりやすくなるようには思います。
ブレンデルのディアベリ解釈については以下に要約してます。
http://kimamalove.blog94.fc2.com/blog-entry-1528.html

個人的には、第24変奏のフゲッタ、叙情的な第29-31変奏、壮大なフーガの最終変奏の印象がとりわけ強く、
忘れ難いものがあります。
ディアベリはベートーヴェンのピアノ作品を集大成した最後の傑作であり、一つの完結した小宇宙のようでも、また、彼の人生の旅路を回顧しているようにも感じます。
変奏ごとに連想する情景、感情、経験などをいろいろ思い浮かべて聴くと、より身近に感じられるのではないかと個人的には思います。

それ以外に理解したいことがあるのであれば、言うまでもないことですが、読書百編…の世界と同じですね。
そういえば、小澤征爾氏が「音楽を教えることはできない。『ひたすら聴いて考えろ』と言うしかない」と言っていたそうです。そういうものなのだろうと思います。

以下は、ディアベリに関する参考資料です。私の話やブログの記事よりも、こちらを参照された方がいろいろ勉強になることも多いと思います。

1.ディアベリの演奏解釈(野平一郎)
http://www.ri.kunitachi.ac.jp/lvb/rep/2004/nodaira04.pdf

2.ブレンデル、アラウ、ソコロフなどの演奏のレビュー記事(ブログなど)
http://www.kapelle.jp/classic/cd_memo/brendel/beethoven_diabelli.html
http://www.kapelle.jp/classic/cd_memo/beethoven_diabelli.html
http://www.sam.hi-ho.ne.jp/s_suzuki/cd_diabelli.html

3.「楽譜に見る《不滅の恋人》への手紙」(北沢方邦)
(青木やよい著『ベートーヴェン《不滅の恋人》の探求』の巻末付録)
最後に2頁分、ディアベリについて書かれてます。

以上

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岡本 浩和

>yoshimi様
こんばんは。
ご丁寧なご返答ありがとうございます。
まさにおっしゃるとおりですね。
音楽を理解するのにコツなんて存在せず、聴いて理解して感じるのみなんですよね。
ご紹介いただいたサイト等あらためて勉強させていただきます。
今後ともよろしくお願いいたします。

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