体験者は語る

体験者は語る。体験なくして説得力のある話はできない。逆にあまりにリアルで合点のゆく忠告の背景には本人の多大なる経験があるということは覚えておいた方が良いかも。リーダーたる者先頭を切って行動を起こしてゆかねばならぬ。

頭でついつい考えるタイプの僕は、合気道のいわゆる型においても書籍やDVDからも学ぼうとしていた。先生に何か参考になるテキストはないかと伝えたところ、1回でも多く道場に来て身に着けることが一番と諭された。5回や6回で型は身につかない。今日教わったことは明日になったら忘れていて当然、地道に継続することだと。なるほどワークショップなどで僕が受講生に口酸っぱく語っていることと同じ。習うより慣れろ。「頭」から入るのでなく「身体」から入ること。体感に優るものなし。

ところで、先日の出雲・松江方面の旅で、断トツで印象に残るのが須佐神社。神社そのものも素晴らしいのだけれど、何より神社のある出雲市佐田町という町が素敵。僕の故郷に優るとも劣らぬ田園風景が広がる長閑な村で、住む人たちの気も良いし空気も良い(匂いが違う)。とはいえ、滞在時間はわずか2時間弱だったので、神社以外の観光スポットをほとんど訪れることができなかったのが残念(もう少し日程に余裕を持たせあらためてまた詣でたい。本でいくら読んでもそれは絵に描いた餅。体感こそすべてである)。

すみだ学習ガーデン第4回「早わかりクラシック音楽入門講座」を終えた。お題はベートーヴェン。楽聖の生涯と作品を2時間の枠に収め、講義するというのは至難の技。ベートーヴェンの偉大さのひとつに「先人の知恵を正面から正確に吸収し、かつ独自のアイデンティティを植え付け、新しい創造物を世に送り出したこと」があるが、中期の傑作群を中心に採り上げつつ、後期の深遠な世界にもほんの少し接していただこうと内容を考えた。
採り上げた音盤は、例えば、朝比奈先生が新日本フィルと録音した全集から第6番「田園」の第4&5楽章や、ツィマーマンがバーンスタイン&ウィーン・フィルと録れた第4協奏曲の第1楽章(抜粋)と第5協奏曲「皇帝」の第1楽章(抜粋)など。それらの映像を観て再度思ったこと。「田園」交響曲の偉大さ、崇高さ。

ベートーヴェン:交響曲第6番ヘ長調作品68「田園」
カール・ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

久しぶりにカール・ベームの「田園」交響曲を聴いた。僕の手元にあるのはちょうど亡くなった年(1981年)に購入したアナログ輸入盤。17歳の時に抱いていた印象と随分かけ離れているように思うが、30年という短いようで長い、長いようで短い年月が僕の感性を鈍化させたのだろうか・・・。いやいや違うだろう。第6交響曲の真価を理解するには相応の経験が要る。人と人とはもちろんのこと人と自然、宇宙が一つになることで真の平和が訪れるんだということを第9交響曲を発表する10数年前に既に彼はわかっていたのだ。それゆえ「田園」は実にベートーヴェンの最高傑作なのでは、と最近は思っている。

ベームの「田園」は本当に素敵(ライブの人、ベームには1977年の東京公演における同曲録音もあるが、僕的にはライブの方が好み)。

※生憎の雨で昨日は満月を拝めなかった。しかし、今日のお月様は強烈な眩しさ。


3 COMMENTS

雅之

こんばんは。
なるほど、田園交響曲と合気道は近いのかもしれませんね。田園交響曲の演奏も、自分の経験上からも脱力の仕方が重要ですしね。合気道精神での「闘わないベートーヴェン」っていう意味からすると、ベームよりワルターのほうが適任じゃないんですかね? どちらも定評ある名演でありながらも、ワルターのほうが肩に力が入ってない気がします。シューリヒトも合気道精神と似合っていそう(笑)。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
おっしゃるとおり確かにワルターの方が適任かもしれませんね。
シューリヒトも好きです。

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アレグロ・コン・ブリオ~第4章 » Blog Archive » 東京に空が無いといふ

[…] 純粋無垢な感性の持ち主だった故の妻智恵子の精神破綻をこうも「くっきりと」表現しうる光太郎の筆致は見事としか言いようがないが、なぜか上記の詩が「あどけない」ものとは決して思えない。 智恵子は新鮮で透明な自然への要求を、日に日に精神を病みゆく中、様々な形で満たそうと試みたらしい。家の周囲の雑草の写生、植物の栽培と、生野菜を食すること、そして宮澤賢治同様、ベートーヴェンの「田園」交響曲のレコードをこよなく愛したという。そんな感覚の持ち主であったのだから、やっぱり「真実」を見ていたのだろう(感覚の鈍った我々こそが虚像、あるいは幻想に踊らされている)。 […]

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