愛と土とを踏む

過剰な明るさは周囲を愉快にするかというと、余計に影を強調することになるケースが多い。明暗、陰陽というのは、足して10になるのではなく、一方が増えれば別の一方が同じように増加するということ。過ぎてしまえば要らない部分まで曝け出してしまうというリスクが生じるということ。

マイルス・デイヴィスの「クールの誕生」のクールさは実にこの音盤を聴き終えたその瞬間に訪れる。折を見て再度「M/D」を読み返しながらようやくマイルスの音盤をひとつひとつじっくりと聴き始めている。わずか30分強のこのアルバムは、1曲目“Move”から実に愉快で高揚感に富むが、何とラストナンバーの”Rouge”が終わったその瞬間にその場の「静けさ」が見事に強調され、何とも言えない「健やかな寂しさ」に身体中が包まれる。これがまたもう一度最初から聴いてみたいという欲望を起こさせ、どうにもエンドレスな作品になっているところが”Cool!!”と叫びたくなる。この事実は僕だけに起こっていることなのかもしれないけれど、とにかく殊更に「静寂」を強調する、そんなアルバムである。

Miles Davis:Birth Of The Cool(1949.1.21, 4.22 & 1950.3.9)

クール・ジャズという白人による白人のためのジャズを始めたのは黒人であるマイルス・デイヴィス。肌の色まで超越する点―つまり一般的な概念を飛び越えてしまう点がマイルスの宇宙人的なところなのだと僕は思うが、あらゆる音楽、芸術のイディオムを飲み込み、まるで自身と同化させてしまうところがこれまたマイルス・デイヴィスという天才の天才である所以。”Birth Of The Cool”は発表当時商業的にまったく振るわなかったそうだが、彼の場合時代が追いつくのに相当な時間を要するということなのだろう。

聴いていてやっぱり哀しくなる・・・。
そして、なぜか室生犀星詩集・・・。

「愛の詩集」序詩
自分は愛のあるところを目ざして行くだらう
悩まされ駆り立てられても
やはりその永久を指して進むだらう
愛と土とを踏むことはうれしい
愛あるところに
昨日のごとく正しく私は歩むだらう。

「愛と土とを踏む」という表現が何ともいかす。
生後間もなく里子に出された犀星にとって実母の愛以外に大切なものってあったのか?ここでいう「愛」も要は母親からの包容を意味するのだろうか・・・。

芸術にとって、それを享受する人に「哀しみ」を感じさせることって重要な要素かも。マイルスを聴き犀星詩集を読んでふとそんなことを考えた。


5 COMMENTS

雅之

こんばんは。
ふと気がついたのですが、陰陽、光と影、明るいVS暗いといった区分けが、マルバツ式、マークシート世代的、デジタル方式、2進法的。

白色の可視光線は、太陽光でも、白熱電球や蛍光灯やLED電球の光であっても、赤、オレンジ、黄、黄緑、緑、青、紫や、その無数の中間色で構成されています。

我が家の明かりを、ほとんど全部LEDに換えました。
http://www.amazon.co.jp/s/ref=nb_sb_noss?__mk_ja_JP=%83J%83%5E%83J%83i&url=search-alias%3Daps&field-keywords=%83p%83i%83%5C%83j%83b%83N%81@LED%93d%8B%85&x=8&y=16#/ref=sr_pg_1?rh=i%3Aaps%2Ck%3A%E3%83%91%E3%83%8A%E3%82%BD%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%AF%E3%80%80LED%E9%9B%BB%E7%90%83&keywords=%E3%83%91%E3%83%8A%E3%82%BD%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%AF%E3%80%80LED%E9%9B%BB%E7%90%83&ie=UTF8&qid=1323861308

LED電球の白色のベースになっている光は、窒化ガリウムによる青色(ブルーレイ)です。

やっぱKind of Blueか!!
http://www.amazon.co.jp/Kind-Blue-Miles-Davis/dp/B000002ADT/ref=sr_1_cc_1?s=kitchen&ie=UTF8&qid=1323862024&sr=1-1-catcorr

同じ青でも、いろんな種類がある・・・。
世の中、白と黒だけでは分けられない。クールジャズとホットジャズだけでもない。

・・・てなこと考えた次第で。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
二元論で物事を思考してしまう点に人間の過ちがそもそもあるのかもしれません。

>我が家の明かりを、ほとんど全部LEDに換えました。
>同じ青でも、いろんな種類がある

LEDの寿命も40000時間とかいいますよね。宇宙は無限です。存在そのものも無限ということですね。

返信する
雅之

>LEDの寿命も40000時間

メーカーなどはそう謳っていますよね。

残りの人生で、あと40000時間音盤聴くかなあ?(笑)

返信する

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